山岡忞

山岡忞：華麗なる騎手人生と影の事件

山岡忞（やまおか つとむ）は、1933年、静岡県浜松市近郊で生まれました。1949年、山岡寿恵次調教師に師事し、1951年に騎手免許を取得。華々しいデビューを飾り、数々の勝利を重ねていきます。

若手時代は着実に実績を積み重ね、1955年には中村広厩舎に移籍。その後、頭角を現し始め、1956年には重賞初制覇を成し遂げます。1958年には年間38勝を記録し、関東リーディング5位にランクイン。一流騎手として名を馳せるようになりました。

山岡騎手の騎乗馬の中でも特に有名だったのが、オンスロートです。この馬とのコンビで、1962年の天皇賞・春を制覇。これは山岡にとって初の八大競走制覇となりました。同年、有馬記念でも優勝し、輝かしい実績をさらに積み重ねました。

山岡騎手の騎乗スタイルは独特でした。「モンキー乗り」と呼ばれる騎乗法でありながら、当時の主流とは異なる、馬の背に密着した姿勢で騎乗するスタイルは、アメリカの騎乗法に近いものでした。作家の渡辺敬一郎氏もそのフォームの美しさを絶賛しています。

しかし、山岡騎手の人生は、1965年に大きな転換点を迎えます。競馬法違反による収賄罪で逮捕されたのです。複数の暴力団員が関与した八百長事件に巻き込まれ、騎乗停止処分を受け、1967年には有罪判決が確定。騎手免許の剥奪と競馬関与禁止処分が下されました。

「山岡事件」は、競馬界に大きな衝撃を与え、山岡騎手の華麗な騎手人生は、突如として幕を閉じました。事件後、山岡騎手の消息はしばらく不明でしたが、後に白井牧場の分場で場長を務めていたことが明らかになっています。

山岡騎手の騎手生活はわずか16年でした。しかし、その間に彼は天皇賞・春、有馬記念など、数々のGIレースを含む14個もの重賞レースを制覇しています。オンスロートとのコンビは、競馬史にその名を刻む偉業を成し遂げました。

山岡事件は、競馬界に不正と暴力団の関与という暗い影を落としました。山岡騎手自身は、才能と努力で頂点に登り詰めたものの、闇社会との関わりによって、全てを失うことになりました。彼の生涯は、成功と挫折、栄光と影の両面を併せ持つ、複雑でドラマチックなものでした。

山岡事件は、競馬界の不正を取り締まるための法整備や、関係者の倫理意識向上への契機となりました。この事件を教訓に、競馬界はより透明で公正な運営を目指していくことになります。山岡忞という一人の騎手の生涯は、競馬界の歴史における重要な一ページとして、今も語り継がれています。

主な成績:

天皇賞・春 (1962年 オンスロート)
有馬記念 (1962年 オンスロート)
安田記念 (1962年 トウコン)
日本経済賞 2勝 (1962年 オンスロート、1965年 フジイサミ)
オータムハンデキャップ (1958年 トパーズ)
その他重賞10勝

参考文献:

『日本調教師・騎手名鑑 1961年版』
『中央競馬レコードブック 1982年版』
阿部珠樹『野球賭博と八百長はなぜ、なくならないのか』
西山茂行氏によるX（旧Twitter）投稿

もう一度検索