山本安英

山本安英の生涯と業績

山本 安英（やまもと やすえ）は、1902年10月29日に誕生し、1993年10月20日に亡くなった日本の新劇女優および朗読家です。彼女の本名は山本 千代（やまもと ちよ）で、築地小劇場の創立メンバーの一人として活動しました。戦後においては、特に木下順二の戯曲『夕鶴』におけるヒロイン・つう役で知られ、同作品を1000回以上演じたことが大きな評価を受けています。

生い立ちと初期の経歴

山本は、横浜で複雑な家庭環境で育ちました。彼女は幼少期に貧しい状況を経験し、その後の俳優としての活動に影響を与えました。15歳で叔母の養女となり、神奈川高等女学校で長唄の稽古を始めることが許可され、芸事への道を歩み始めました。

1921年に現代劇女優養成所に入所し、最年少で合格。その際に「安英」と名乗ります。彼女は、1923年の関東大震災を乗り越え、その後築地小劇場の創立に参加し、本格的な芝居の世界に足を踏み入れました。

戦前の活動

1924年に築地小劇場の研究生となり、以降多くの重要な作品に出演しました。山本は、喜劇やドラマにおいて多彩な役を務め、『どん底』や『桜の園』などの作品で圧倒的な存在感を示しました。彼女は特に、演技における発声や感情表現に定評があり、役柄への理解が深いことで高く評価されました。

1927年には、劇作家の小山内薫の命で、バイタリティ溢れる腰元の役を演じ、その際には周囲から驚嘆の声が上がりました。

戦後の活動と影響

戦後、山本はより一層演劇活動に精力を注ぎ、1946年には8年ぶりに舞台に復帰しました。彼女の演技は多くの人々に感動をもたらし、再び『夕鶴』のヒロイン役を演じることとなります。この作品は彼女にとっての代表作となり、最終的には1037回に達する公演が行われました。

木下順二との強い絆は、彼女の演劇人生において非常に重要な要素となり、さまざまな作品にわたって共演・共演出を重ねました。また、山本自身が設立した「ぶどうの会」を通して、後進の育成にも力を入れたことは、彼女のキャリアにおける重要な一面でした。

晩年と遺産

晩年は病気との闘いが続きましたが、彼女はあくまで演技に対する情熱を持ち続け、演じることを何よりも愛し続けました。1993年に急性呼吸不全のため92歳で亡くなります。彼女の葬儀は遺言により施行されず、後に追悼行事が開催されました。また、公演や活動にかかわる数多くの資料が寄贈され、彼女の功績は今でも語り継がれています。

山本安英の生涯は、困難な時代を生き抜き、多くの人々に感動を与え続けた演劇者の物語です。その足跡は、日本の演劇界に深い影響を与え続けています。

もう一度検索