山梨県志

山梨県志の概要と歴史

『山梨県志』は、1915年（大正4年）に山梨県で立ち上げられた民間の修史事業です。この事業は、若尾財閥の三代目当主である若尾謹之助が発案しましたが、残念ながら途中で終了する運命を辿りました。

修史事業の歴史的背景

「山梨県」は、明治維新を経て1871年に甲府県から改名されたもので、江戸時代には「甲斐国」として知られていました。元々「山梨」という名称はその一部である山梨郡に由来し、明治初期には一般に「峡中」と呼ばれていました。しかし、次第に「山梨」が県全体の呼称として使われるようになり、「山梨県志」にも採用されています。

江戸中期からの修史事業としては、当時の随筆や紀行文、地誌などが著されており、1814年には「甲斐国志」が編纂されました。「甲斐国志」は、甲府勤番が主導した私選の総合地誌で、地域の歴史や文化を述べていますが、その後しばらくは大きな修史事業は行われませんでした。

山梨県志の編纂過程

明治時代には、多くの地域の名士や教育者、政治家が郷土研究を行い、文人たちが活動していました。この中で、若尾謹之助は実業家としての傍ら、郷土文化に関心を持ち、様々な研究を行っていました。彼が発表した『おもちゃ籠』やその補遺は、地域の玩具文化に焦点を当てたものでした。

1915年には、甲府商業会議所が郷土史家の赤岡重樹を中心に「甲斐史」の編纂を試み、同年11月に「山梨県志」が発足しました。若尾家の支援により、編纂会が設立され、謹之助が総裁に就任しました。会長には内藤文治良が就き、編纂委員に赤岡や広瀬、村松が加わる体制が整いました。

この「山梨県志」では、『甲斐国志』を上回る完成度を目指し、県内の古文書や行政資料を詳しく調査しました。各市町村には「町村取調書」を送付し、地域の歴史や文化に関する情報を集めました。特に「人物」の項目では、忠臣や学者、侠客といった社会的に顕著な人物がリストアップされています。

編纂はほぼ進展を見せ、「現代史」の刊行が実現寸前まで行きました。しかし、1923年の関東大震災やその後の昭和恐慌の影響により、事業は止まってしまいました。

編纂事業の影響とその後

若尾資料と呼ばれる、山梨県志編纂会が収集した文書や資料は、一部が県立図書館に収蔵され、後に県立博物館に移されています。この資料群は地域の歴史の重要な源泉となっています。また、山梨県志の取り組みがきっかけとなり、1920年からは山梨県が「史跡名勝天然記念物」の調査を開始し、多くの県立図書館や博物館が地域の文化史に関して力を入れることになりました。

さらに、1930年には「甲斐郷土研究学会」が設立され、続いて自らの会誌『甲斐』を刊行しました。戦後も、山梨県内の自治体による史編纂が進められ、1990年からは『山梨県史』という大規模な修史事業が開始され、2007年に無事に完結しました。これらの取り組みは、地域の歴史を次の世代に引き継ぐための大切な足跡として評価され続けています。

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