甲府勤番

甲府勤番とは

甲府勤番（こうふきんばん）は、江戸幕府が甲斐国（現在の山梨県）に設置した役職です。江戸時代中期に設置され、甲府城の守衛、城米の管理、武具の整備、甲府町方支配を担いました。この項目では、甲府勤番が役職化される以前の甲府城番についても解説します。

甲府城番時代

甲斐国は、武田氏滅亡後、徳川氏や豊臣系の大名が領有し、甲府城が築かれました。江戸時代初期には、国中三郡を治める甲府藩と、東部の郡内地方を治める谷村藩が設置されました。しかし、甲府藩は1607年に徳川義直が尾張清洲へ転封されたことで一時的に廃藩となり、1607年から1616年までは城番制が敷かれました。

城番は、山高孫兵衛親吉、青木与兵衛信安、入戸野又兵衛門光(門宗)、折井仁左衛門次吉、柳沢三左衛門、小尾彦左衛門重近、馬場民部信成、米倉丹後信継(種継)、山寺仁左衛門信光、曲淵筑後吉清、跡部十郎左衛門胤信、知見寺越前盛之(蔦木盛次)の12名で、2人ずつ10日交代で任務にあたりました。彼らは津金衆の小尾と跡部を除き、武川衆であったため、「武川十二騎」と呼ばれました。

1616年、徳川忠長が藩主となり、最初の城番制は解消されました。

甲府勤番の成立と支配

1704年、谷村藩が廃止され、柳沢氏が藩主を務めていた時代には、甲斐一円は甲府藩の支配下にありました。甲州街道を通じて江戸と結ばれる甲斐国は、政治的に重要な位置を占めていました。享保年間には、将軍徳川吉宗が主導した享保の改革により、幕府直轄領拡大政策が推進されました。1724年3月、柳沢吉里が転封となり、甲府藩は廃藩、甲斐一円は幕府直轄領となりました。甲府町方は町奉行から勤番支配へ、在方は四分代官支配へと移行しました。

『徳川実紀』や『甲府勤番日記』によると、甲府城の引き渡しが完了すると、同年7月4日に有馬純珍、興津忠閭が赴任し、8月には老中水野忠之から服務内容が示されました。

甲府勤番支配は老中支配下に置かれ、定員2名、役高は3000石でした。甲府城内大手と山手に配置され、配下に勤番士200名、与力20人、同心50人が付けられました。彼らは甲府城の守護、府中政務や訴訟の処理を担当しました。

甲府勤番支配には、幕府小普請組から多くが任命され、平均着任年齢は50代でした。この役職は、幕臣の素行不良の懲戒や、仕事場を失った余剰幕臣の受け皿としての側面もあり、勤番任命は「山流し」と呼ばれ、旗本や御家人にとっては事実上の左遷と見なされていました。

甲府学問所を設立した滝川利雍や、『甲斐国志』を編纂した松平定能などが、甲府勤番を務めた人物として知られています。

1778年からの寛政の改革では、不良幕臣対策として甲府勝手小普請が併設されました。その後、甲斐国内で一揆や騒動が発生し、勤番の中から処分者が出たため、甲斐国は難治の国とされ、甲府勤番は敬遠されるようになりました。1866年には甲府勤番支配の上位に甲府城代が設置され、同年末には甲府町奉行が再設置され、甲府勤番の機能は城代、小普請組、町奉行に分割されました。

甲府勤番の職制と任務

甲府勤番は、追手組と山手組の2組で構成され、各組の長には甲府勤番支配が置かれました。配下には勤番士100名、与力、同心などが配置されました。職制上、甲府勤番は老中配下で、遠国奉行の筆頭として、江戸城芙蓉之間詰めで駿府城代と並ぶ地位でした。

甲府勤番支配の役高は3000石、役料は1000石でした。任命者の多くは小普請組支配であり、1724年以降に75人が就任しました。追手組支配は38人、山手組支配は37人が就任しました。家禄は3000石以上の高禄旗本が多く、1000石代の者が登用されるのは稀なことでした。

勤番士は石高500石から200俵取りまでで、5人ずつの組に編成され、小普請組から多くが任命されました。主な任務は、甲府城の守衛、城米の管理、武具の整備、町方支配でした。特に重要な任務であった甲府城の守衛は、各門を昼夜交代で警備しました。武器は武具奉行が管理しました。

甲府勤番には、武田遺臣の系譜を引く甲州系幕臣が多く任命されました。甲斐の地では、武田氏時代の伝統が尊重されていました。

甲府城は、内城区域を内堀、甲府勤番や勤番士の居住する武家地を二ノ堀、町人地を三ノ堀で囲郭していました。郭内には役宅や米蔵、学問所などの諸施設がありました。

甲府勤番の文化的活動

甲府勤番は、元禄年間に増加した幕府財政を圧迫していた旗本・御家人対策として始まりましたが、「山流し」というイメージが強く、勤番士の不良旗本の処罰事件も多く見られました。勤番士の綱紀粛正のため、武芸見分が実施され、1796年には甲府学問所が創設され、1803年には「徽典館」と命名され、昌平坂学問所の分校となりました。

また、野田成方や宮本定正など、甲斐国に関する地誌を記した勤番士もいました。特に、滝川利雍が編纂を始め、松平定能が引き継いで完成させた『甲斐国志』は、甲斐国に関する総合的な地誌として知られています。

研究史

甲府勤番については、近世の地誌類に記述があり、戦後には平沢勘蔵、田渕正和らによる制度史的研究が行われました。自治体史では、関係資料の集成が進められています。特に、『甲府市史』では基本的な史料が集成されており、『山梨県史』では甲府勤番関係文書や甲府町政に関する史料が収録されています。また、江戸東京博物館所蔵の文書や内閣文庫所蔵の文書も研究に活用されています。

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