山田文雄

山田 文雄（やまだ ふみお）

山田文雄は、日本の昭和期を代表する経済学者の一人である。東京帝国大学で教鞭を執り、後には愛知大学の学長を務めた。師である河合栄治郎の思想を継承し、戦後には社会思想の研究・普及に大きな足跡を残した人物として知られる。

生い立ちと教育

1897年5月14日、東京に生まれた。父は三井鉱山で神岡鉱山事務所長を務めた工学博士の山田文太郎である。山田文雄は、まず海軍兵学校に進んだが、後に第一高等学校を経て東京帝国大学経済学部へ入学。卒業後、大学院に進み、そこで思想家・経済学者として大きな影響力を持っていた河合栄治郎に師事した。河合門下生の中でも中心的な存在の一人となる。

初期キャリアと東京帝大時代

大学院修了後、朝鮮の京城帝国大学予科の講師に就任し、後に同大学法文学部の助教授となった。1930年、母校である東京帝国大学経済学部に戻り、助教授に任じられる。翌1931年には教授に昇進し、主に工業政策に関する講義を担当した。順調に研究者としての道を歩んでいた山田であったが、1939年に学内での思想問題に端を発する「平賀粛学」が発生する。師である河合栄治郎が大学を追われることになり、山田は師に殉じる形で、木村健康助手とともに東京帝国大学を辞職するという道を採った。この出来事は、学問の自由が脅かされた時代の厳しい現実を示す一例として語られる。

戦中から戦後へ

東京帝大を辞した同年、山田は鶴見祐輔が運営していた太平洋協会に入り、調査部長として活動した。戦後、日本の社会が大きく変化する中で、山田も新たな役割を担うことになる。1947年には東京都の副知事を務め、復興期の都政に携わった。そして1950年、愛知県豊橋市に位置する愛知大学に法経学部教授として着任した。

愛知大学時代と社会思想研究会

愛知大学では、経済学者としての教育・研究活動を続ける傍ら、大学の運営にも深く関わった。1969年から1970年にかけては、全国的な学園紛争の波が愛知大学にも及ぶ中で、第7代学長としてその対応にあたった。

研究面では、戦後の混乱期である1946年11月に、長尾春雄、木村健康、土屋清、石上良平、関嘉彦、猪木正道ら、河合栄治郎門下の同志たちとともに「社会思想研究会」を創立したことが特筆される。この研究会は、「哲学と実践との仲介たる社会思想」の研究と普及を目的とし、後に多くの社会思想に関する書籍や雑誌を刊行する出版部門「社会思想社」を設立した。山田自身もこの研究会の中心メンバーとして、民主的社会主義や家族・親族といったテーマに関する研究を進めた。彼の活動は、戦後の日本の社会思想に大きな影響を与えた。

晩年と逝去

晩年も研究・教育活動を続けたが、1978年8月16日に81歳で死去した。墓所は東京都台東区にある寛永寺谷中墓地にある。

著作と翻訳

山田文雄は多くの著作や翻訳を残している。専門である工業経済学に関する著書のほか、戦時中には『国際原料資源論』、『南方圏の現実と太平洋』、『日本戦時経済論』、『東印度の経済』といった時局に関する研究も発表した。また、戦後は海外の思想家や経済学者の重要な著作を翻訳・紹介することにも力を入れた。カール・ベッカーの『自由と責任』、J・M・ケインズの『自由放任の終焉』、K・マーティンの『ハロルド・ラスキ』などの翻訳は、日本の学術界に新たな視点をもたらす上で重要な役割を果たした。

家族

妻のゆりは、著名な数学者である藤沢利喜太郎の三女にあたる。

参考文献

彼の生涯や業績については、竹内洋著『大学という病 東大紛擾と教授群像』や、東京大学経済学部編『東京大学経済学部五十年史』、粕谷一希著『河合栄治郎－戦う自由主義者とその系譜』などに詳しい記述がある。

関連項目

社会思想、将校志望を断念した日本の人物の一覧など、関連する項目からその人物像や背景をさらに理解することができる。

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