太平洋協会

太平洋協会

太平洋協会は、1938年5月に「太平洋国策の樹立」を掲げて設立された、日本の国策調査・研究機関です。設立の中心人物は鶴見祐輔であり、海軍の支援のもと、南洋の資源情報収集を目的としていました。副会長には松岡洋右が就任し、鶴見が事実上の運営を取り仕切りました。会長は最後まで空席のままでした。

設立の背景と特徴

設立には、海軍の意向が強く反映されており、鶴見のような日本IPR（太平洋問題調査会）に関わっていた知識人も参加しました。太平洋協会は、同時期に設立された他の国策調査機関、例えば東亜研究所のように、アジアやユーラシアを対象とした地域研究機関とは異なり、環太平洋地域、特に南北アメリカ大陸を調査対象としていた点が特徴的です。この点が、他の機関との大きな違いでした。

太平洋戦争期には、ボルネオ守備軍のもとで、北ボルネオの占領地調査も行いました。関嘉彦が班長を務め、現地の状況を詳細に調査しました。

多様な人材

太平洋協会には、様々な分野の研究者が集まっていました。講座派社会科学者であり、戦後に中国研究所を設立した平野義太郎、河合栄治郎の弟子であり、戦後社会思想研究会を結成した関嘉彦、そして思想の科学研究会を立ち上げた人々など、多種多様なバックグラウンドを持つ人々がいました。また、民族研究所や台北帝国大学南方人文研究所などと並び、戦時期における人類学者の活動の場ともなりました。清野謙次や杉浦健一などが参加しています。

1943年には、協会内にアメリカ研究室が設置されました。丸の内の三菱ビルに拠点を構え、鶴見和子、坂西志保、都留重人、阿部行蔵を中心に、細入藤太郎、清水幾太郎、福田恆存らが加わり、戦時下のアメリカの実情調査に取り組みました。

解散とその後

太平洋協会は、1945年8月の敗戦に伴い解散しました。協会の資産は、中心メンバーであった平野らの「中国研究所」グループと、関らの「社会思想研究会」グループに分割・継承されました。

機関誌

機関誌として『太平洋』が1938年12月に創刊され、1945年6月発行の8巻6号まで刊行されました。敗戦により編集部は解散しましたが、資金と印刷・流通ルートが残っていたため、太平洋協会出版部内に「先駆社」という編集室だけの出版社が作られ、そこから鶴見俊輔編集の『思想の科学』が発刊されました。

関連人物

山田文雄
山田節男
笠間杲雄
岩倉具栄（常務理事）

参考文献

石塚義夫 「太平洋協会について」 『環』（藤原書店）第8号（2002年1月）所収
関嘉彦 『私と社会民主主義：天命のままに八十余年』 日本図書刊行会、1998年 ISBN 4823102622
長岡新吉 『日本資本主義論争の群像』 ミネルヴァ書房、1984年 ISBN 4623015629
原覚天 『現代アジア研究成立史論 - 満鉄調査部・東亜研究所・IPRの研究 - 』 勁草書房、1984年

太平洋協会は、太平洋地域に関する調査研究を目的とした、当時の時代背景を反映した研究機関でした。その活動は、戦後の社会科学研究にも影響を与えたと言えるでしょう。

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