山際素男

山際素男（やまぎわ もとお）は、1929年5月21日に三重県で生まれ、2009年3月19日に79歳で亡くなった日本のノンフィクション作家、インド文化研究家、翻訳家です。彼の専門はインド文学であり、その生涯は波乱に満ちたものでした。

生い立ちと学歴

山際素男は、三重県大王町で生まれました。中学、高校でそれぞれ中退を経験し、その後、法政大学文学部日本文学科を卒業しました。大学卒業後は、朝日新聞東京本社や世界労連東京事務所に勤務しましたが、後にインドへ留学し、インド国立パトナ大学、ビスババラティ大学で学びました。このインドでの経験が、後の彼の活動に大きな影響を与えました。

作家・翻訳家としての活動

帰国後、山際素男は文筆活動を開始し、ノンフィクション作家、翻訳家として多岐にわたる分野で活躍しました。特に、インドのカースト制度の実態を告発した『不可触民 もうひとつのインド』は、社会に大きな衝撃を与えました。1998年には、古代インドの大叙事詩『マハーバーラタ』の翻訳で第34回日本翻訳出版文化賞を受賞し、翻訳家としての高い評価を確立しました。

また、山際素男はチベット問題にも深く関わり、ダライ・ラマの自伝をはじめとするチベット関連の書籍を翻訳しました。ダライ・ラマ法王日本代表部事務所にも関わり、ダライ・ラマの発言の日本語翻訳も担当しました。翻訳、執筆活動だけでなく、講演活動も精力的に行いました。

人物像と交友関係

山際素男は、20代の頃は小説家を志しており、同人誌活動を通じて同い年の作家・色川武大と親交を深めました。色川は山際を「奇人」と捉えており、自身の出世作『怪しい来客簿』に山際を登場させたいと考えていたそうです。また、色川の小説の中にも山際をモデルにしたキャラクターが登場しています。山際には二人の息子がいましたが、次男が色川の少年時代にそっくりだったため、「下の息子は、俺がインドに行っている間に、色川がつくった子供じゃないか」と冗談を言っていたというエピソードも残っています。

1984年には、女優の吉行和子と岸田今日子（学生時代の同級生）から「インドに行ってみたい」と依頼され、年末から翌年初めにかけて彼女らをインド旅行に案内し、その旅の記録を『脳みそカレー味 岸田今日子・吉行和子とのインド旅日記』としてまとめました。この本は、山際素男のユーモアあふれる人柄を伝えるとともに、インドの文化や生活を垣間見ることができる貴重な記録となっています。

その他の活動

山際素男は、翻訳家、作家としての活動に加えて、講演会にも積極的に参加し、自身の経験や知識を広く伝えました。インド、チベットに関する彼の深い知識と洞察力は、多くの人々に影響を与えました。山際素男は、2009年3月19日に間質性肺炎のため、東京都東大和市の病院で亡くなりましたが、彼の残した著作や翻訳は、今も多くの読者に影響を与え続けています。

主な著書・翻訳

著書

『不可触民 もうひとつのインド』（三一書房、1981年）
『不可触民の道 インド民衆のなかへ』（三一書房、1982年）
『脳みそカレー味 岸田今日子・吉行和子とのインド旅日記』（三一書房、1985年）
『カーリー女神の戦士』（三一書房、1985年）
『インド群盗伝』（三一書房、1985年）
『チベットのこころ』（三一書房、1994年、後に『チベット問題 - ダライ・ラマ十四世と亡命者たちの証言』に改題、光文社新書、2008年）
『破天 一億の魂を掴んだ男』（南風社、2000年）
『マハーバーラタ インド千夜一夜物語』（光文社新書、2002年）
『不可触民と現代インド』（光文社新書、2003年）
『踊るマハーバーラタ 愚かで愛しい物語』（光文社新書、2006年）

翻訳

『マハーバーラタ』全9巻（三一書房、1991年 - 1998年）
『不可触民バクハの一日』（M・R・アナンド、三一書房、1984年）
『清掃夫の息子』（T・S・ピライ、三一書房、1986年）
『ブッダとそのダンマ』（B・R・アンベードカル、三一書房、1987年）
『アンベードカルの生涯』（ダナンジャイ・キール、三一書房、1995年）
『チベット奇跡の転生』（ヴィッキー・マッケンジー、文藝春秋、1995年）
『ダライ・ラマ自伝』（ダライ・ラマ、文藝春秋、1992年）
『ダライ・ラマ 幸福(しあわせ)になる心』（ダライ・ラマ、春秋社、2001年）
『あたいのじっちゃん、象、飼ってたの』（ヴァイコム・M・バシール、出帆新社、2002年）
『中国はいかにチベットを侵略したか』（マイケル・ダナム、講談社インターナショナル、2006年）

山際素男の業績は、インド文学やチベット問題に関心を持つ人々にとって、貴重な資料であり、彼の探求心と多才な才能は、今後も多くの人々に影響を与え続けるでしょう。

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