岡崎哲二

岡崎 哲二

岡崎 哲二（おかざき てつじ）氏は、1958年（昭和33年）5月25日生まれの日本の経済学者です。長年にわたり研究教育活動に従事し、特に日本経済史分野における第一人者として知られています。経済の根幹をなす「制度」や「組織」が、歴史の中でどのように機能し、変化してきたのかを深く掘り下げる研究を専門としています。

経歴と学歴

東京都で育ち、1977年に麻布高等学校を卒業しました。その後、東京大学経済学部経済学科へ進み、1981年に卒業。さらに学術研究の道を志し、同大学院経済学研究科博士課程に進学し、1986年に修了しました。この際、経済学博士の学位を取得しています。

博士課程修了と同年の1986年、東京大学社会科学研究所の助手として研究者キャリアをスタートさせました。1989年には東京大学経済学部の助教授に昇任。1999年には同大学院経済学研究科の教授となり、長期にわたり東京大学で教育と研究を牽引しました。

海外の研究機関とも密接な関係を持ち、1996年から1997年にかけてスタンフォード大学の客員研究員として滞在。2002年から2003年にはスタンフォード大学経済学部の客員教授を務め、また2002年にはフランス社会科学高等研究院の客員教授としても招かれました。国際的な視点から研究を進める姿勢は、その後の活動にも表れています。

2024年からは、明治学院大学経済学部の教授として、新たな環境で研究・教育に力を注いでいます。また、政府系や民間の研究機関にも籍を置いており、経済産業研究所（RIETI）のファカルティーフェローや、キヤノングローバル戦略研究所（CIGS）の研究主幹も務めています。2008年には、財団法人東京経済研究センターの代表理事として運営に携わった経験もあります。

専門分野と研究テーマ

岡崎氏の専門は日本経済史であり、その研究のアプローチは「制度と組織についての分析」に特徴があります。これは、単に過去の経済事象を追うだけでなく、経済活動を規定するルール（制度）や主体間の関係性（組織）が、歴史的にどのように生まれ、機能し、経済発展や構造変化に影響を与えてきたかを解明しようとするものです。

具体的な研究対象は多岐にわたりますが、特に戦前・戦時期の日本の産業、企業、金融システムに関する実証研究は国際的にも高く評価されています。例えば、当時の企業組織のあり方、産業政策の効果、銀行システムの構造と安定性、労働関係などが詳細に分析されています。近世の江戸時代における市場や商業組織についても、歴史制度分析の手法を用いて新たな光を当てています。これらの研究成果は、現代日本経済が直面する課題を理解する上で、歴史的な洞察を提供しています。

国際的な活動と貢献

経済史研究分野における国際的なリーダーとしても重要な役割を担ってきました。International Economic History Association（IEHA）という世界的な学会において、2012年から2015年まで副会長を務め、続いて2015年から2018年までの任期で会長を務めました。これは、日本人研究者としてこの権威ある国際学会のトップを務めた特筆すべき業績であり、岡崎氏の研究が世界的に認知されていることの証です。現在もIEHAの名誉会長として、学会の運営や国際的な研究者ネットワークの維持に貢献しています。

主な著作と論文

数多くの重要な研究成果を、著書や論文として公表しています。代表的な単著としては、

『日本の工業化と鉄鋼産業 経済発展の比較制度分析』（東京大学出版会、1993年）
『江戸の市場経済 歴史制度分析からみた株仲間』（講談社、1999年）
『持株会社の歴史 財閥と企業統治』（ちくま新書、1999年）
『生産組織の経済史』（東京大学出版会、2000年）

などがあり、それぞれのテーマで経済史研究に新たな視点をもたらしました。

また、他の研究者との共同による編著や共著も多数あります。

『取引制度の経済史』（編著、東京大学出版会、2001年）
（青木昌彦・奥野正寛らとの共編著）『市場の役割 国家の役割』（東洋経済新報社、1999年）
* （奥野正寛・植田和男らとの共著）『戦後日本の資金配分 産業政策と民間銀行』（東京大学出版会、2002年）

などがあります。

学術論文も国内外の主要なジャーナルに多数発表しており、その実証的な分析は後続の研究者に大きな影響を与えています。代表的な論文には、産業集積への自然災害の影響、企業買収と生産性、戦前日本の銀行ネットワーク、戦時中の産業組織、戦後の産業政策の効果測定など、具体的な歴史事例に基づいた厳密な分析が多く含まれています。これらの論文は、American Economic Review, Economic History Review, Journal of Law and Economics, Explorations in Economic Historyといった権威ある国際学術誌に掲載されており、その研究成果が広く共有されています。

岡崎哲二氏の研究は、過去の日本経済を制度・組織という視点から深く掘り下げることで、現代経済が抱える構造的な問題を理解するための重要な手がかりを提供しています。歴史研究を通じて現代社会に貢献するその姿勢は、多くの研究者や学生に影響を与えています。

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