岡村貢

岡村貢：上越線の父と称された情熱の人

岡村貢（おかむら みつぎ）は、天保7年（1836年）に越後国魚沼郡（現在の新潟県南魚沼市）に生まれ、明治・大正期に政治家、実業家として活躍しました。彼は、第十三大区長、南魚沼郡長、衆議院議員を歴任し、法師温泉の創業者としても知られています。その生涯は、郷土の発展に捧げられ、「上越線の父」として後世に語り継がれています。

生い立ちと戊辰戦争

岡村家は、豪農であり、幼名は「大次郎」と名付けられました。慶応4年（1868年）の戊辰戦争では、幕府側に加担した疑いで父と共に官軍に拘束されますが、母や組内の庄屋たちの尽力により解放されます。この時、官軍の大将から民と社会のために尽くすよう激励されたことが、彼の人生を大きく左右しました。

地方行政での活躍

明治維新後、岡村貢は柏崎県第四大区長、新潟県第十三大区長を歴任し、明治5年（1872年）には法師温泉を創業しました。明治12年（1879年）には南魚沼郡長に就任し、小学校や病院、金融機関の設立、道路・河川の改修など、地域社会の発展に尽力しました。

上越線への情熱

明治15年（1882年）、岡村貢は鉄道時代の到来を予見し、郷土の発展には交通の発達が不可欠と考え、東京と新潟を結ぶ鉄道敷設を志します。郡長を辞職し、同志と共に鉄道敷設運動に奔走しました。

鉄道敷設運動

岡村貢は、土樽村の村長・南雲喜之七らと協力し、建設ルートの確定に尽力。「上越鉄道会社設立事務所」を開設し、新潟と長岡で鉄道大会を開催するなど、世論を喚起しました。工学士の佐分利一嗣を招き、三国峠、蓬峠、清水峠の各ルートを検証した結果、蓬峠案を最有力としました。

しかし、鉄道敷設免許の申請は二度にわたり却下されます。明治25年（1892年）には、鉄道敷設法の第一期線として上越線を含むルートが定められますが、鉄道会議の結果、上越線案は建設予定路線の候補から外れてしまいます。

国政への挑戦と挫折

岡村貢は、国政の場で上越線の必要性を訴えるため、明治27年（1894年）に衆議院議員に立候補し、当選を果たします。しかし、帝国議会に提出した修正案は否決され、官製での敷設に限界を感じた岡村貢は、民間での敷設を目指すようになります。

明治28年（1895年）には、沿線住民らと「上越鐵道会社」を設立し、前橋 - 長岡間の鉄道敷設免許を申請。鉄道技師の沢重之を中心に本格的な調査を開始し、仮免状を取得しますが、日清戦争後の物価高騰により、増資が必要な事態に陥ります。

明治33年（1900年）に本免許が下付されますが、不況による資金不足や組織内部の対立により、上越鉄道会社は解散。岡村貢は、先祖伝来の家産の大部分を投じた事業の成就を目前に、手を引くことを決意します。

晩年と上越線の開通

岡村貢の意志は、南雲喜之七らに引き継がれ、運動が継続されます。大正6年（1917年）には、政府が上越線建設に向けて本格的なルート調査を開始し、大正7年（1918年）には、上越線を含む鉄道敷設法の改正案が可決され、国営での建設が決定しました。

大正9年（1920年）、上越北線の一部が開通し、岡村貢は開業式に招待され、祝辞を述べました。しかし、その2年後の大正11年（1922年）1月7日、岡村貢は87年の生涯を閉じました。上越線全線開通を見ることなく亡くなりましたが、彼の情熱は、確かに後世へと受け継がれました。

死後

上越線は、昭和6年（1931年）に全線開通し、岡村貢の功績を讃え、石打駅前に銅像が建立されました。台座の揮毫は、田中角栄によるものです。南魚沼市立石打小学校では、上越線開通90周年記念式典が開催され、越後湯沢駅にはレリーフが設置されました。

岡村貢は、その生涯を郷土の発展に捧げ、上越線の実現に情熱を注ぎました。彼の不屈の精神は、今もなお、多くの人々に感銘を与え続けています。

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