岡田實 (電気工学者)

岡田實（おかだ みのる）

昭和時代に活躍した日本の電気工学者（1907年10月31日 - 1991年1月14日）。特に航空電子工学や通信工学の分野で顕著な業績を残し、工学博士号を取得している。

生涯と業績

航空無線研究の黎明期

愛知県名古屋市に生まれた岡田實は、1931年3月に東京帝国大学工学部電気工学科を卒業後、逓信省の電気試験所に入所した。ここで彼は日本の航空無線研究に深く関わることになる。

船舶の無線航行を支援するため、「反転式回転無線標識」を考案した。これは、後に日本の船舶無線航行援助方式の主流となる画期的な技術であった。さらに、彼は「相差式無線標識」という方式も発明している。この方式は、後に米国で開発され、国際標準として世界中の航空機で利用されることとなるVOR（VHF全方向式無線標識）と原理的に同一のものであった。無線標識を中心とした一連の航空機無線嚮導方式に関する研究が評価され、1941年8月には東京帝国大学から工学博士号を授与された。

しかし、同年12月に太平洋戦争が開戦したことで、彼の航空無線に関する基礎研究は中断を余儀なくされた。戦時中、彼はレーダーなど、軍事上の要請に基づく研究開発に従事することとなった。

戦後の復興と通信技術の発展

戦争末期の1945年、岡田は電気試験所の山梨支所開設準備に携わり、支所長を務めた。終戦後の同年10月には東京へ戻り、新設された試験部長の職に就く。GHQの勧告により1948年8月に電気試験所が通信部門と電力部門に分割された際、彼は逓信省所管の電気通信研究所へ移り、引き続き試験部長、翌年からは試作部長を務めた。その後、電気通信省を経て日本電信電話公社が設立されると、1953年4月には方式部長、1955年7月には研究所次長に昇進する。

この電気通信研究所次長時代、彼は日本の高度経済成長を支える基幹通信技術の実用化を強力に指導した。具体的には、マイクロ波中継方式、同軸多重回線方式、そしてクロスバー交換方式といった、当時の最先端技術の導入と普及を牽引し、日本の通信インフラ整備に多大な貢献を果たした。

教育・研究への尽力と社会貢献

1957年8月、岡田は母校である東京大学の教授に転じた。戦後日本の航空研究が再開される流れを受け、翌年4月の東京大学航空研究所復活に先立ち、その母体となる理工学研究所に勤務する。1964年4月には航空研究所が宇宙航空研究所に改組され、引き続きここで研究と教育にあたった。

大学での研究活動では、中断していた航空無線分野に戻り、ドップラー・レーダーを用いた自動航法装置、自動航空交通管制システム、航空機着陸用の精密高度計など、多岐にわたる研究に取り組んだ。同時に、大学院では多くの学生を指導し、次世代の研究者育成に貢献した。東京大学以外にも、教養学部、電気通信大学、工学院大学で講師を務めるなど、教育への情熱は深かった。

1968年3月に東京大学を定年退官した後は、工学院大学の教授に就任。大学紛争の渦中にあった1970年6月には同学長に就任し、困難な状況下で大学運営の責任を担った。学長在任中には、学費値上げ反対闘争といった難題にも対処している。

1974年5月、彼は工学院大学長を辞任し、運輸省航空事故調査委員会の委員長という重責を引き受けた。翌月から1980年2月まで委員長を務め、航空事故の原因究明と安全対策の向上に貢献した。このほかにも、運輸省航空審議会や科学技術庁電子技術審議会の委員、電波航法研究会、電子通信学会の副会長、航空振興財団の顧問など、数多くの公職や役職を歴任し、日本の科学技術振興と社会の発展に貢献した。

栄誉と晩年

岡田實の業績は国内外で高く評価された。航空無線標識の発明や完成に対して、日本ラヂオ協会功績章、大毎・東日通信賞、帝国発明協会奨励賞を受賞。特に「反転式回転無線標識」の発明完成に対しては、1968年に紫綬褒章が授与されている。

東京大学名誉教授の称号を授与され、米国電気電子学会（IEEE）のフェローにも選ばれた。

1991年1月14日、肺炎のため東京都世田谷区の病院で死去。83歳。

主な著作

『マイクロ波を利用した航空用航法装置』（共立出版、1960年）
『電波応用』（谷村功ほか共著、コロナ社、1962年）
『近代電波応用工学』（織野善夫ほか共著、電気書院、1971年）
『航空機の自立航法装置』（小田達太郎共著、コロナ社、1972年）
『航空電子装置』（編著、日刊工業新聞社、1966年、1978年改訂）

受賞歴

日本ラヂオ協会功績章（1940年）
大毎・東日通信賞（1941年）
帝国発明協会奨励賞（1943年）
* 紫綬褒章（1968年）

もう一度検索