岩宿遺跡

岩宿遺跡（いわじゅくいせき）は、群馬県みどり市笠懸町にある、日本列島の旧石器時代を初めて明確に証明した極めて重要な遺跡です。現在、国の史跡に指定されています。

この遺跡の発見は、日本の考古学界における定説を根底から覆すものでした。第二次世界大戦後間もない1946年頃、在野の考古学者であった相沢忠洋氏が、この地の関東ローム層中から黒曜石の打製石器を見つけ出したのです。それまで、日本列島には縄文時代以前に人類は居住していなかったと考えられていましたが、相沢氏の発見によって、日本にも数万年前の旧石器時代が存在したことが揺るぎなく証明されました。この画期的な発見は、その後の日本各地での旧石器時代遺跡の探査・発見ラッシュの契機となり、日本の先史時代研究に新たな時代の幕を開けました。相沢氏の、困難な状況下での粘り強い研究と発見は、日本の人類史に計り知れない貢献をもたらしました。

遺跡は、赤城山南東麓、渡良瀬川右岸に広がる「鹿田山丘陵」に位置します。丘陵の北部を「稲荷山」、南部を「山寺山」と呼び、相沢氏が最初に石器を発見した場所は、両山の間の低い鞍部を通る道路の切通しの露出面でした。彼はそこで、地層の中から石器を発見したのです。

相沢氏の発見の重要性を認識した明治大学は、1949年に杉原荘介教授を中心とする調査団を組織し、本格的な発掘調査を実施しました。調査は切通しの北側（A区）と南側（B区）に分けて行われ、特にA区において、地中深くの関東ローム層の中に、年代の異なる二つの石器文化層が存在することが明らかになりました。

一つ目の文化層は、地表下約1.5メートル、中部ローム層最上部の黒褐色層から出土した石器群で、「岩宿I文化」と呼ばれています。これは約3万年前にあたると推定されています。この文化層からは、楕円形の打製石斧、掻器、刃器状剥片、石核などが見つかっており、石材としては頁岩が多く使われています。また、自然の礫やクリ材の炭化物も出土しており、当時の人々が植物資源も利用していた可能性を示唆しています。この文化層の上部には、約2.5万年前の姶良Tn火山灰（AT火山灰）が確認されており、岩宿I文化がこの火山灰噴出よりも古い時代のものであることがわかっています。

二つ目の文化層は、岩宿I文化層の上の、上部ローム層中の黄褐色層から見つかった石器群で、「岩宿II文化」と名付けられています。これは約2万年前の文化とされています。この文化は、切出形やナイフ形と呼ばれる特徴的な石器を指標とします。岩宿I文化と比較して、使用される石材がより多様化しており、瑪瑙、黒耀石、安山岩など様々な石が道具の材料として用いられています。これは、当時の人々の活動範囲の広がりや、石材を獲得・加工する技術の進展を示すと考えられます。

岩宿遺跡は、日本列島における人類の歴史を数万年も遡らせた、学術的にも歴史的にも極めて重要な遺跡です。その価値が認められ、1979年に国の史跡に指定されました。また、遺跡から出土した打製石器やナイフ形石器などの貴重な遺物は、旧石器時代の人々の生活や技術を知る上で欠かせない資料として、国の重要文化財（考古資料）に指定されています。

遺跡の重要性を後世に伝え、研究成果を公開するため、現地には岩宿博物館が設けられています。また、岩宿遺跡の発見とその後の研究に貢献した人物を顕彰する「岩宿文化賞」も創設されています。相沢忠洋氏の功績を称える相沢忠洋記念館も近くにあります。

岩宿遺跡は、一人の研究者の情熱が日本の歴史観を大きく変えた場所であり、日本列島における人類の遠い過去を知る上で、今なお変わらぬ重要性を持つ記念碑的な遺跡です。

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