岩崎與八郎

岩崎與八郎：不屈の精神で事業を拡大した実業家

岩崎與八郎（いわさき よはちろう）は、1902年（明治35年）に鹿児島県囎唹郡岩川村（現在の曽於市の一部）で生まれ、1993年（平成5年）に91歳で亡くなった実業家です。岩崎産業グループの創業者として知られています。

生い立ちと青年期

與八郎は、父斎藤斉と母岩崎たねの間に生まれましたが、父は與八郎が幼い頃に家を出て、母方の姓である岩崎姓を名乗ることになりました。母親は旅館「みどり屋」を経営し、與八郎を育てました。岩川には旧制中学校がなかったため、高等小学校卒業後は社会に出ました。陸軍幼年学校を受験するも、身体検査で落第しています。

中山商店での経験

その後、元貴族院議員の中山嘉兵衛が経営する岩川醸造（中山商店）で働くことになりました。当初は店番として働いていましたが、焼酎の原料となる芋の仕入れなどの業務も任されるようになり、その手腕を発揮しました。さらに、鹿児島支店勤務となり、商品の仕入れと販売を担当しました。夜間には簿記学校にも通い、経営者としての基礎を築きました。この頃に徴兵検査を受けましたが、乙種合格でした。

岩崎商店の創業と枕木事業での成功

1922年（大正11年）、地元に鉄道工事が始まったことをきっかけに、枕木の納入業者になることを目指し、岩崎商店を創業しました。上京して鉄道省と交渉しましたが、当初は若く実績がないことを理由に断られました。しかし、1923年（大正12年）の関東大震災によって状況は一変しました。鉄道復旧のために大量の枕木が必要となり、岩崎商店は納入業者として指定され、急速に事業を拡大し、短期間で日本一の枕木納入業者へと成長しました。

1924年（大正13年）には田口芳江と結婚しました。また、郵便逓送事業の許可を得て鹿児島市に転居し、事業を拡大しました。世界恐慌の際には、取引先が鉄道省や逓信省といった役所であったため、影響を受けることはありませんでした。さらに、奄美大島の山林を購入し、そこから産出される木材を枕木として販売するなど、事業の多角化も進めました。

1940年（昭和15年）には、岩崎商店を岩崎産業株式会社に改組しました。

戦時中と戦後の事業展開

第二次世界大戦中には、朝鮮総督府鉄道や南満州鉄道などにも販路を拡大し、枕木販売で巨額の利益を得ました。一方で、金鉱山の経営や造船業、航空機部品製造など、戦争に協力する事業も展開しました。戦後、連合軍によって戦争協力者として連行され、取り調べを受けましたが、三菱グループとの関係はないことを釈明しています。その後、進駐軍との関係を構築し、朝鮮戦争では枕木の大量発注を受けてさらに利益を上げました。

戦後は、運輸・観光事業にも進出し、1952年（昭和27年）には南薩鉄道の社長に就任し、経営を立て直しました。また、三州自動車を買収し、両社を合併させて鹿児島交通を設立しました。屋久島航路にも進出し、フェリー「屋久島丸」を就航させました。指宿温泉の開発にも力を入れ、指宿観光ホテルやジャングル浴場を建設し、観光客を呼び込みました。その他、佐多岬ロードパークの建設や、箱根、伊豆など県外にも事業を拡大しました。海外にも目を向け、オーストラリアにリゾート開発も行っています。

公的活動と晩年

1968年（昭和43年）には鹿児島商工会議所会頭に就任し、6期18年にわたって務めました。会頭としては、鹿児島空港の移転問題や鹿児島港への豪華客船誘致、国際線開設など、鹿児島の観光国際化に尽力しました。1993年（平成5年）に91歳で亡くなるまで、事業活動に精力的に取り組みました。

人物像

與八郎は、事業に対して非常に厳しく、ワンマンな一面もありましたが、一方で社会貢献にも熱心でした。地元に学校を寄贈したり、奨学金を設立したり、美術館を設立したりと、数々の慈善活動を行いました。また、無線通信設備を導入するなど、革新的な側面も持ち合わせていました。

岩崎與八郎は、その生涯を通して、不屈の精神と先見の明で事業を拡大し、故郷である鹿児島県の発展に大きく貢献しました。

脚注

岩崎美術館・工芸館

参考文献

末永勝介『岩崎與八郎伝』岩崎グループ、1995年6月30日。
* 片平恒文『明治百年記念 鹿児島を動かす人々』維新社、1968年10月23日、pp.32-33頁。

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