岩手県営野球場

岩手県営野球場は、かつて岩手県盛岡市に存在した野球場である。施設の所有者は岩手県庁であり、指定管理者制度に基づき岩手県スポーツ振興事業団がその運営管理を担っていた。しかし、施設の経年劣化による老朽化が進んだこと、そして代替施設となる「いわて盛岡ボールパーク」が開場したことに伴い、2023年（令和5年）3月31日をもって廃止扱いとなった。

歴史と概要

この球場は、国民体育大会「みちのく国体」を翌年に控えた1970年（昭和45年）4月30日に竣工した。開場以来、全国高等学校野球選手権岩手大会のメイン会場として、また硬式・軟式を問わず数多くのアマチュア野球公式戦の舞台として活用されてきた。さらに、年間1～2試合程度のプロ野球公式戦も開催され、岩手県を代表する野球場としての地位を確立していた。

初めてのプロ野球公式戦は、完成年のヤクルトアトムズ対大洋ホエールズ戦であった。以降、ヤクルトや大洋・横浜のほか、読売ジャイアンツ、広島東洋カープ、阪神タイガース、日本ハムファイターズ、オリックス・ブルーウェーブといった様々な球団が主催試合を開催した。2005年（平成17年）からは、東北楽天ゴールデンイーグルスの公式戦が年1～2試合組まれるようになっている（ただし、2012年には予定されていた1試合が降雨ノーゲームとなったケースもある）。閉鎖までに開催された日本プロ野球（NPB）一軍公式戦の総数は、2022年（令和4年）6月22日に行われた楽天対日本ハム戦を含めて79試合に上る。

特に記憶に残る出来事として、2012年（平成24年）7月23日には、岩手県内で初となるプロ野球オールスターゲームの第3戦が開催された。この試合には、東日本大震災で被災した地域の小中高校生およそ2400人が招待された。

球場施設は1983年（昭和58年）と1993年（平成5年）の二度にわたり改修工事が実施されたが、時間の経過とともに老朽化は避けられなかった。また、公認野球規則が定める両翼の基準値（99.06m）に対し、当球場の両翼サイズが狭いことなども課題として指摘されていた。これらの理由から、盛岡市営野球場と共に、同じ盛岡市内に新設された「いわて盛岡ボールパーク」へその機能を移管することが決定した。この移管に伴い、2022年（令和4年）6月22日の楽天対日本ハム戦が、この球場におけるプロ野球最後の試合となり、楽天が6対3でサヨナラ勝利を収めた。

新球場のいわて盛岡ボールパークでは、2023年（令和5年）4月1日の開場初日の記念試合に先立ち、岩手県営野球場と盛岡市営野球場のグラウンドの土を新球場に散布する「継承式」が執り行われた。岩手県営野球場は、盛岡南公園に完成した新球場の供用開始から5年以内に、施設としての用途を廃止することとされていた。

岩手県営野球場は、多くの高校球児にとっても特別な場所であった。特に、花巻東高等学校出身の菊池雄星投手や大谷翔平選手、岩手県立大船渡高等学校出身の佐々木朗希投手など、数々の名投手がこのマウンドでプレーした。大谷選手は高校3年夏の岩手大会準決勝で、アマチュア野球史上初の球速160km/hを記録し、佐々木投手も高校3年夏の同大会4回戦で大谷選手に並ぶ最速記録をこの球場でマークしている。

閉鎖を知った盛岡市の土地家屋調査士法人の代表者が、岩手県庁に3Dデータ化を提案し了承されたことで、2022年（令和4年）11月28日から12月12日にかけて球場内外の写真約800枚が撮影され、記録として保存されることになった。

施設概要

岩手県営野球場は以下の施設スペックを有していた。

グラウンド面積： 13,677m²
両翼： 91.5m、中堅： 122m
内野： クレー舗装、外野： 天然芝（高麗芝）
照明設備： 1000W×6基（最大照度：投捕間 2300Lx、内野 2200Lx、外野 1038Lx）
収容人員： 25,000人（内野：背もたれ付きセパレート式、外野：芝生席）
スコアボード： 磁気反転式。イニングスコア表示部下にはLED式のフリーボードが設置されていた。このフリーボードは、かつてパネル式スコアボード時代にあった本塁打が出ると点灯する「ホームランランプ」に代わる設備として改修時に設けられたもので、2005年からは球速表示にも対応した。なお、2009年までは電球式であった（色は赤のみ）。ボールカウントの表示は、2012年より「SBO」から「BSO」に変更されている。
屋内練習場： 1塁側および3塁側のスタンド下に設けられていた。プロ野球開催時、グラウンド上のブルペンではなく、この屋内練習場内のブルペンが使用される場合もあった。
メインスタンド： RC造地上2階建てで、1969年（昭和44年）11月に竣工し、1983年（昭和58年）4月に増設された。収容人員は25,000人。

余談：ジェット風船について

この球場ではジェット風船の使用が禁止されているという説があった。実際、2004年（平成16年）に開催された横浜DeNAベイスターズ主催の対ヤクルト戦では、「ジェット風船使用禁止」の場内アナウンスが流れた事例がある。しかし、2005年以降に開催された東北楽天ゴールデンイーグルス主催試合や、それ以前の広島東洋カープ主催試合では、特に禁止されることなく使用が許可されており、球場内の売店でもジェット風船が販売されていた（売り子が場内を巡回販売するケースもあった）。このことから、球場としての統一ルールで禁止されていたわけではなく、主催する球団によって対応が異なっていたと推測される。横浜DeNAベイスターズは2012年まで本拠地の横浜スタジアムでジェット風船の使用を禁止しており、その方針に準じた対応であったと考えられる。

交通アクセス

盛岡駅からの公共交通機関として、JR東日本盛岡駅東口からバスが運行されていた。

岩手県交通 11番のりば： 310 松園山岸線・松園ニュータウン行、311 駅桜台団地線・桜台団地行。
ジェイアールバス東北 1番のりば： 早坂高原線龍泉洞行。

いずれの路線も「県営野球場前」バス停で下車し、徒歩約3分であった。所要時間は路線によって異なった。プロ野球などの大規模イベント開催時には、盛岡駅からの臨時バスも運行された。

自動車を利用する場合、東北自動車道盛岡ICから約30分を要した。ただし、球場周辺を通る国道455号や市道は、普段から通勤ラッシュ時の渋滞が激しい区間であった。そのため、プロ野球が平日のナイトゲームで開催される場合、夕方の時間帯は通常より通行車両が増加し、さらなる混雑が予想されたため、バスを利用して来場する際には注意が必要であった。

球場の駐車場は設けられていたが、収容台数が限られていたため、来場者が多いプロ野球や夏の高校野球岩手県大会開催時には、関係者やマスコミ車両、臨時バスの待機場として使用され、一般車両は利用できなかった。なお、球場周辺の地元住民が私有地を有料駐車場として提供するケースもあったが、これらは球場主催者とは無関係の非公認駐車場であったため、チケットなどに付属する案内では「駐車場なし」とし、「公共交通機関での来場」が強く推奨されていた。

岩手県営野球場