岩波講座

岩波講座とは

岩波講座は、岩波書店が刊行する叢書シリーズであり、各分野の研究者や専門家が執筆した論文を、特定のテーマや分野ごとに体系的にまとめたものです。各巻は独立した論文で構成され、シリーズ全体で一つの学問分野をカバーします。その規模は大きく、一つのテーマに対し、十数巻から数十巻に及ぶことも珍しくありません。

略称として「岩講（いわこう）」と呼ばれることもあります。また、かつて開催されていた市民向けの公開講座「岩波市民講座」や、長野県須坂市で毎年開催されている「信州岩波講座」についても、本稿で解説します。

概要・歴史

岩波講座は、1928年2月5日に刊行された「現代思潮」を嚆矢とします。複数の執筆者が協力し、体系的に問題を整理して分冊出版するという形式は、この「現代思潮」によって確立されたと言われています。

大学の講座のように、特定の学問分野の体系的な知識を提供することを目指し、「講座」と名付けられました。「現代思潮」の成功を受け、岩波書店は次々と講座を刊行しました。しかし、第二次世界大戦の激化により出版事情が悪化し、1941年に刊行が開始された「機械工学」は、全20巻の予定が10巻で中断を余儀なくされました。

戦前の岩波講座は、各論文が独立した分冊として刊行されることが多かった点が、戦後のシリーズと異なります。また、同時期には『日本資本主義発達史講座』や『普及講座防災科学』といった、他の「講座もの」も刊行されました。

戦後は、1952年の「教育」を皮切りに、思想・哲学、歴史学、自然科学、文学などを中心とした大部のシリーズが次々と刊行されました。戦前のシリーズと区別するため、タイトルに「現代」を冠するものが多く見られます。1980年代中頃からは、哲学・思想、歴史学、産業・技術分野において、10巻以下のシリーズで特定のテーマを掘り下げる傾向が見られるようになり、芸術分野のシリーズも新たに登場しました。社会科学系のシリーズ刊行が増加する一方、自然科学系では「現代数学への入門」、「現代数学の基礎」、「現代数学の展開」、「物理の世界」といった新しいタイプの講座が刊行されています。

岩波講座は、専門的な内容を持つ叢書として、日本国内で最大級の刊行点数を誇り、幅広い分野を網羅しています。なお、経済学分野は例外的に、「岩波講座」の名を冠さず、『日本資本主義講座』、『西洋経済史講座』、『現代経済学』、『現代資本主義分析』、『日本経済史』といった叢書を刊行してきましたが、2017年からは『岩波講座日本経済の歴史』が刊行されています。

シリーズ一覧

以下に、岩波講座の主なシリーズを、日本十進分類法に基づき分類して示します。

1. 哲学・思想
岩波講座世界思潮
岩波講座東洋思潮
岩波講座哲学
岩波講座倫理学
岩波講座現代思想
岩波講座精神の科学
岩波講座東洋思想
岩波講座転換期における人間
岩波講座宗教と科学
岩波講座科学/技術と人間
岩波講座宗教
岩波講座日本の思想
2. 歴史学・地域研究
岩波講座日本歴史
岩波講座世界歴史
岩波講座日本考古学
岩波講座現代中国
岩波講座近代日本と植民地
岩波講座東南アジア史
岩波講座近代日本の文化史
岩波講座天皇と王権を考える
岩波講座アジア・太平洋戦争
岩波講座「帝国」日本の学知
岩波講座東アジア近現代通史
3. 社会科学
岩波講座教育科学
岩波講座教育
岩波講座現代教育学
岩波講座現代
岩波講座現代法
岩波講座現代都市政策
岩波講座子どもの発達と教育
岩波講座基本法学
岩波講座教育の方法
岩波講座社会科学の方法
岩波講座現代社会学
岩波講座文化人類学
岩波講座現代の法
岩波講座開発と文化
岩波講座現代の教育：危機と改革
岩波講座自治体の構想
岩波講座環境経済・政策学
岩波講座都市の再生を考える
岩波講座憲法
岩波講座政治哲学
岩波講座コミュニケーションの認知科学
岩波講座現代法の動態
岩波講座教育：変革への展望
岩波講座日本経済の歴史
4. 自然科学
岩波講座物理学及び化学
岩波講座生物学
岩波講座地質学及び古生物学、鉱物学及び岩石学、地理学
岩波講座数学
岩波講座現代物理学
岩波講座現代化学
岩波講座現代応用数学
岩波講座現代の生物学
岩波講座現代物理学の基礎
岩波講座現代生物科学
岩波講座基礎数学
岩波講座地球科学
岩波講座分子生物科学
岩波講座現代の物理学
岩波講座応用数学
岩波講座認知科学
岩波講座現代数学への入門
岩波講座地球惑星科学
岩波講座現代数学の基礎
岩波講座地球環境学
岩波講座現代数学の展開
岩波講座現代医学の基礎
岩波講座現代化学への入門
岩波講座物理の世界
岩波講座計算科学
5-6. 産業・技術
岩波講座機械工学
岩波講座基礎工学
岩波講座情報科学
岩波講座マイクロエレクトロニクス
岩波講座ソフトウェア科学
岩波講座マルチメディア情報学
岩波講座現代工学の基礎
岩波講座インターネット
岩波講座ロボット学
7. 芸術
岩波講座能・狂言
岩波講座日本の音楽・アジアの音楽
岩波講座歌舞伎・文楽
8-9. 言語・文学
岩波講座日本文学
岩波講座世界文学
岩波講座文学
岩波講座日本文学史
岩波講座日本語
岩波講座日本文学と仏教
岩波講座言語の科学

岩波市民講座

岩波市民講座は、1964年から1979年にかけて岩波書店が主催していた市民向けの公開講座です。当初は「岩波の文化講演会」として始まり、全国各地で大規模な講演会が開催されていました。その後、より体系的な学問・研究の知識を聴講者に提供するため、小規模・少人数の講義形式の講座に移行しました。

講座の内容は、雑誌『図書』に掲載されたり、岩波新書として出版されたものもあります。

信州岩波講座

信州岩波講座は、1999年から長野県須坂市で毎年開催されている市民向けの公開講座です。岩波書店元社長の安江良介の構想に基づき、須坂市、岩波書店、信濃毎日新聞社の三者と市民団体が協力し、「市民的知性」の育成と「市民文化」の創造を目的としています。

毎年の講座テーマは、秋に開催されるフォーラム集会で提案され、招聘する講師が選定されます。2004年から2008年までは、井出孫六が企画監修を務めていました。

開催一覧および基本テーマ

1999年以降の開催テーマは以下の通りです。

1999年：第1回「いま、何が人間社会に問われているのか」
2000年：第2回「歴史に学ぶ――新しい世紀の出発にあたって」
2001年：第3回「子どもとどう向き合うか――変化する家族」
2002年：第4回「学びへのたびだち」
2003年：第5回「日本のこころ世界のかたち」
2004年：第6回「緑と水と人間と――環境の時代を生きる」
2005年：第7回「地域の再生とこの国のゆくえ」
2006年：第8回「情報社会をどう生きるか。」
2007年：第9回「幸せってなんだろう――科学技術と宗教の視座から」
2008年：第10回「「ふるさと」からアジア太平洋の時代を観る」
2009年：第11回「日本の「自立」――暮らしのベースを再構築するために」
2010年：第12回「「閉塞」社会から「希望」社会へ――変革の時代を生きる」
2011年：第13回「変革の長い道のり――新たな絆を求めて」
2012年：第14回「新しいはじまり――3.11後をどう生きる」
2013年：第15回「岐路に立つ日本――決めるのは私たちです」
2014年：第16回「未来へ人間らしく――希望の社会・そのつくり方」
2015年：第17回「「戦後70年」からの出発」
2016年：第18回「私が考え選ぶ明日」
2017年：第19回「変わる世界――私たちはどう生きるか」
2018年：第20回「今、くにのかたちは――歴史と向き合う」
2019年：第21回「あすへ繋ぐ学び」
2020年：第22回（中止）
2021年：第23回「あすへ繋ぐ学び」
2022年：第24回「あすへ繋ぐ学び」
2023年：第25回「あすへ繋ぐ学び」
2024年：第26回「あすへ繋ぐ学び」

脚注・参考文献

参考文献は以下の通りです。

岩波書店『岩波書店八十年』(岩波書店、1997年)
岩波書店「本と岩波書店の百年」(創業100周年パンフレット、2013年)
『読み学びつなぐ 信州岩波講座 1999〜2018』(信濃毎日新聞社メディア局出版部、2019年)

関連項目

叢書
講座

外部リンク

信州岩波講座

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