岩田彦助

岩田彦助：江戸前期の儒学者

岩田彦助（いわた ひこすけ）は、江戸時代前期に活躍した儒学者です。阿波国徳島（現在の徳島県）出身で、谷村藩・川越藩の藩主であった秋元喬知に重用され、「秋元に過ぎたるもの二つある、無の字の槍と岩田彦助」とまで称えられました。

生涯

万治元年（1658年）6月25日、阿波国徳島富田に生まれました。14歳で父を亡くし、家禄150石を継ぎましたが、16歳で浪人となり、義父に養われました。20代の頃は徳島で学問に励み、書道、弓馬、柔術、槍・刀・弓術、鳥銃などの武芸も修めました。

貞享4年（1687年）に江戸へ出て、神社の幟や額面、牌銘、出版物の版下などの揮毫を行いました。元禄2年（1689年）7月27日、甲斐谷村藩に出仕し、月俸2石2斗5升を給されました。その後、順調に加増され、元禄6年（1693年）には秩150石、元禄8年（1695年）には50石加増されました。元禄12年（1699年）には軽卒25人を従え、元禄13年（1700年）には小家監となりました。

元禄14年（1701年）に藩主の秋元喬知が老中に就任すると、江戸家老として藩邸で公務を統括しました。元禄15年（1702年）には100石加増されています。

宝永3年（1706年）8月4日には正家監となり、同年10月の川越藩への転封に伴い川越に移りました。宝永5年（1708年）には堀兼村の窪地を古代の堀兼の井の地と定め、石碑を建立しました。同年、200石加増され、正徳元年（1711年）にはさらに200石加増され、最終的には計700石となりました。

享保19年（1734年）5月18日、川越城表御殿で病没し、南町養寿院に葬られました。法名は寅斉練岳通心居士。墓は昭和33年（1958年）3月6日に川越市指定史跡となっています。

思想

熊沢蕃山の影響を受け、聖人の説いた礼はその時・国・人・勢を考慮して運用しなければならないとする相対主義的な立場を取りました。そのため、崎門学派等の朱子学者を教条主義的であると批判し、また、これと対立する陽明学派や、新たな説を唱える古学派とも距離を置きました。

天道思想については、現実には必ずしも善人に福、悪人に禍いをもたらさないとしてその存在を否定し、善悪の報いを期待せずに人道を行うことを説きました。

仁を「人己相対する所の道の名目」と定義し、朱子学の「愛之理、心之徳」とする定義を批判しました。単に温和慈愛なだけでは不十分で、時には主君に諫言するような厳しさも求められるとし、諫言する文化のない日本社会を批判しました。

孟子の性善説は人心の荒廃していた戦国時代に教化するために作られた方便に過ぎず、宋代の儒学者による本然の性・気質の性といった議論は無用であるとしました。

著書

従好談 巻1-巻4追加 (1729年) - 仮名教訓本。後に『倭俗談』、『教訓従孝談』として後印。
八九紀行 (1729年) - 大坂出張時の紀行文。
書札弁惑集 - 詳細不明。

家族

父：可次
母：今枝氏
子：岩田種徳
婿養子：岩田和種
孫：岩田丹治要信

子孫は代々彦助を名乗り、館林藩転封後も秋元家に仕え、『三彦秘笈』『寅斎小伝』『岩田家系譜同由緒書』『先祖書』などが館林市立第一資料館に所蔵されています。

岩田彦助は、徳島藩から秋元家に仕え、藩政に貢献しただけでなく、独自の思想を確立し、著作も残した江戸時代の儒学者として、その名を知られています。

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