岳南電車岳南鉄道線

岳南鉄道線は、静岡県富士市に位置する吉原駅と岳南江尾駅を結ぶ、岳南電車株式会社が運営する鉄道路線です。この路線は、かつては岳南鉄道によって運営されていましたが、主要な収入源であった貨物輸送が2012年に廃止されたことを受け、経営状況が悪化したため、2013年4月に鉄道部門が岳南電車として分社化されました。現在は「岳南線」あるいは「岳南電車線」とも呼ばれ、地域の重要な公共交通機関として機能しています。

路線の全長は9.2キロメートルで、線路の幅（軌間）は1067ミリメートルです。吉原駅と岳南江尾駅を含む全10駅が設けられており、全線が単線で、列車が行き違うことができるのは一部の駅に限られます。また、全線が直流1500ボルトで電化されており、列車は最高速度45キロメートル毎時で運行されています。

旅客列車は、全ての列車が各駅に停車し、吉原駅から岳南江尾駅までを直通で結んでいます。途中駅を始発・終着とする区間列車は設定されていません。列車は完全にパターン化されたダイヤではありませんが、およそ20分から30分間隔で運行されており、比較的利用しやすい間隔が確保されています。列車交換は、本吉原駅、岳南原田駅、比奈駅、岳南富士岡駅、須津駅のいずれかで行われますが、日中は本吉原駅、岳南原田駅、比奈駅のいずれかでのみ行われることが多いです。吉原駅で接続するJR東海道線との乗り換えを考慮し、時間帯によって列車交換を行う駅が変動することもあります。始発列車は岳南江尾駅を6時10分に出発し、最終列車は吉原駅を平日22時25分に出発します。最終列車の時刻は平日と土曜・休日で異なります。

使用される車両は主に3種類です。朝夕の通勤・帰宅時間帯には、岳南江尾駅に留置されていることが多い2両固定編成の8000形電車が主に運用されます。それ以外の時間帯は、1両編成の7000形電車と2両編成の9000形電車が活躍します。平日の朝には、これら全ての車両が使用されることもあります。予備の車両や研修用の車両として、岳南富士岡駅に留置されている7000形もあります。多客時には、連結運転が可能な7000形2両が連結して運行された実績もあります。かつては、定期列車の他に工場への通勤者のための臨時列車や区間運転も多数設定されていました。

岳南鉄道線は、開業当初から沿線の工場への貨物輸送が盛んで、最盛期の1969年には年間99.9万トンもの貨物を取り扱っていました。しかし、トラック輸送への転換などにより貨物量は減少し、1991年以降は旅客収入が貨物収入を上回るようになりました。旅客輸送量も最盛期と比較すると大きく減少しましたが、近年はその減少幅が小さくなっています。このような状況の中、2012年3月をもって貨物列車の運行が廃止され、岳南鉄道線の経営は一層厳しい状況となりました。このため、富士市からの公的支援を受けながら、2013年に岳南電車として新たなスタートを切ることとなりました。

貨物輸送で培われた歴史とは別に、近年はユニークな取り組みで注目を集めています。2014年7月には、鉄道としては初めて「日本夜景遺産」に認定されました。これをきっかけに、車内の照明を一部消灯して走行する「夜景電車」が運行され、好評を博しています。当初は不定期運行でしたが、後に定期運行化され、現在は月に数回、週末を中心に運行されています。また、完全予約制の貸切列車「ナイトビュープレミアムトレイン」も運行されています。その他にも、2015年の映画『幕が上がる』のロケ地として使用されたり、線路と道路の両方を走行できるDMV（デュアル・モード・ビークル）のテスト走行が行われたりするなど、様々な試みが行われています。さらに、駅近くの踏切には、現在では珍しくなった電鈴式踏切の音を聞くことができる場所もあります。

新型コロナウイルス感染症の影響による経営悪化に対応するため、2021年にはクラウドファンディングを実施し、多額の支援を得ることに成功しました。この資金を活用し、吉原駅での電車の運転体験が実現し、新たな収益源・観光コンテンツとなっています。将来的には、沿線への電力供給事業なども計画されており、地域社会との連携を深めながら、路線の維持・活性化に向けた取り組みが続けられています。岳南鉄道線は、かつての貨物路線から、地域の生活を支え、新たな魅力を発信する鉄道として、変化を続けています。

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