岸洋子

岸洋子：日本のシャンソン界を彩った歌姫の生涯

1935年、山形県酒田市に生まれた岸洋子（本名：小山洋子）は、日本のシャンソン歌手として、その圧倒的な歌唱力と表現力で多くの人々を魅了した歌手です。幼少期に宝塚歌劇団の声楽教授であった加藤千恵氏が開設したボーカルスタジオで音楽に触れたことがきっかけとなり、後に東京藝術大学に進学、二期会研究生としてオペラ歌手を目指します。しかし、心臓神経症により歌手を断念せざるを得ない状況に陥ります。

病床でエディット・ピアフの音楽と出会い、人生の転機を迎えます。ピアフの魂を揺さぶる歌声に感銘を受けた岸は、1959年、NHKのオーディションに見事合格。シャンソンの道へ進むことを決意します。

1961年、キングレコードと専属契約を結び、『たわむれないで』でレコードデビューを果たします。石井音楽事務所に所属し、本格的な歌手活動を開始。1964年には『夜明けのうた』がヒット、日本レコード大賞歌唱賞を受賞するなど、実力派歌手として頭角を現わします。翌年には『恋心』も大ヒットを記録し、テレビ番組の司会やミュージカル出演など、活動の幅を広げていきます。

順風満帆に見えた歌手生活でしたが、1970年、酒田市でのイベント中に倒れ、膠原病と診断されます。闘病生活を余儀なくされながらも、同年発売の『希望』は70万枚を売り上げる大ヒットとなり、2度目の日本レコード大賞歌唱賞を受賞する快挙を成し遂げます。しかし、入院中のため授賞式には出席できず、NHK紅白歌合戦への出場も辞退せざるを得ませんでした。

激しい闘病生活を乗り越え、岸は奇跡的な復活を遂げます。1971年には『甦える明日』をレコーディング。さらに『希望』は第43回選抜高校野球大会の入場行進曲に採用されるなど、その歌声は人々の心に深く響き渡りました。以後も、レコード発売や公演数は減少したものの、精力的に活動を続けました。

1989年には歌手生活30周年を記念した全国ツアーを開催しますが、公演中に激痛に襲われ、ツアーを中断せざるを得ませんでした。しかし、岸は「同じ難病をかかえる人たちの心の支えになるためにも、私は歌い続ける」という強い意志を持ち続け、1991年にカムバックを果たします。東京厚生年金会館での公演は、多くの人々に感動を与えました。

1992年、自宅玄関で転倒、肋骨を骨折。膠原病の後遺症の悪化により腎臓病治療のため再入院します。入院中でも年末のディナーショーの準備を行うなど、衰えぬ情熱を燃やし続けました。しかし、退院を目前に控えた12月10日、意識不明の重体となり、翌11日、敗血症のため57歳で急逝しました。生涯独身でした。

没後、故郷の酒田市では「岸洋子を歌いつぐ会」が結成され、彼女の楽曲が歌い継がれています。越路吹雪と人気を二分し、「魅せる越路、聴かせる岸」と称された岸洋子の歌声は、今もなお、多くの人々の心に生き続けています。彼女の歌は、人生の苦難を乗り越える力、そして希望を与え続けてくれるでしょう。

代表曲

夜明けのうた
恋心
想い出のソレンツァーラ
希望
わかっているの
私の回転木馬
マリネロ
黒い鷲
トワ
そして今は
笑わないで
愛は限りなく
アリヴェデルチ・ローマ
アル・ディ・ラ
ケ・サラ
コマン・サ・バ
ラストワルツ
アンデスの風になりたい
今宵あなたが聞く歌は

主な経歴
山形県立酒田東高等学校卒業
1958年：東京藝術大学大学院声楽専攻科修了
1961年：キングレコードと専属契約
1964年：『夜明けのうた』で日本レコード大賞歌唱賞受賞
1970年：膠原病と診断、闘病生活に入る
1971年：病気を克服し、復帰
1983年：自叙伝『さくらんぼの楽譜』出版
* 1992年：敗血症のため死去

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