岸田日出男

岸田日出男：吉野熊野国立公園の設立に尽力した郷土史家

岸田日出男（きしだ ひでお、1890年11月30日 - 1959年4月6日）は、日本の林業技師であり、奈良県庁の職員、そして郷土史家として活躍しました。彼は、吉野熊野国立公園の指定に大きく貢献した人物として知られています。

生涯

1890年、岸田日出男は奈良県高見村に生まれ、後に大淀町へと移り住みました。1908年には奈良県立農林学校を卒業し、その後は吉野郡役所（後の奈良県庁出先機関）に勤務しました。

1916年、岸田は東京帝国大学の白井光太郎が吉野山で行った講演を聴講しました。白井の「吉野名山の保護について」と題した講演に感銘を受け、吉野の山岳渓谷や森林の美しさに強く惹かれるようになります。当時、大規模な森林開発やダム建設によって地域の自然が失われつつある現状を目の当たりにした岸田は、大台ケ原を含む吉野群山一帯を国立公園として保護する必要性を強く感じ、吉野から熊野にかけての地域を踏査し、国立公園指定に必要な資料を収集しました。これらの資料が国立公園の指定に繋がったことから、岸田は地元大淀町で「吉野熊野国立公園の父」として称えられています。

業績

資料群

岸田の死後、大淀町の自宅からは段ボール約60箱に及ぶ資料が発見され、大淀町に寄贈されました。これらの資料は、郷土史を研究する上で非常に貴重なものとして、2016年から整理が進められています。

映像資料

1922年には、内務省衛生局が撮影した大峯山系、大台ケ原を題材にした映画『吉野群峯』（全3巻）の撮影に、岸田は郡役所職員として協力しました。その際、撮影されたフィルムのうち2巻と3巻が2016年に岸田の残した資料の中から再発見され、2021年現在では奈良県最古の記録動画となっています。また、1923年には『瀞八丁』、1937年には『熊野路』が撮影され、これらのフィルムも全て大淀町に寄贈されました。これらの映像資料は、町の公式Youtubeチャンネルで全編が公開されており、2021年8月には、4巻全てのフィルムが奈良県の文化財に指定されました。

ニホンオオカミの頭骨

岸田の遺品からは、ニホンオオカミの頭骨も発見されました。この頭骨には、「（上北山村の）天が瀬の人が自宅の庭へ、小便を飲みに来た狼（おおかみ）を殺して保管していたのがこの頭蓋骨である」という覚書が付けられていました。このオオカミは1890年に上北山村で殺された個体で、1936年に岸田が譲り受けたと推測されています。岸田によるニホンオオカミに関する記述は、没後の1963年に吉野史談会機関誌「吉野風土記」に『日本狼物語』として発表されました。

その他

台高山脈は、岸田によって命名されたとされています。

著書

岸田は、郷土史に関する著作も残しています。

顕彰碑

1971年8月、大峯奥駈道には吉野熊野自然保護協会によって岸田を顕彰する碑が建立されました。

岸田日出男は、地域の自然保護と歴史研究に生涯を捧げた人物であり、その功績は今もなお多くの人々に語り継がれています。

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