台高山脈

台高山脈（だいこうさんみゃく）

台高山脈は、紀伊半島東部に位置する山脈で、三重県と奈良県の県境を南北に連なっています。大台ヶ原山地とも呼ばれ、大峰山脈と共に「近畿の屋根」と称されることがあります。また、「近畿の秘境」や「三重県の屋根」といった異名も持ち、その豊かな自然と深い山々は多くの人々を魅了してきました。

概要

台高山脈は、高見山から大台ヶ原山（最高峰：日出ヶ岳）まで、約30kmにわたって連なる山脈です。北は高見山地、南は牟婁山地、西は大峰山脈と隣接しており、その稜線は、三重県と奈良県の境界を形成しています。この山脈は、両端の山である大台ヶ原山と高見山から一文字ずつとって名付けられました。山脈の大部分は、室生赤目青山国定公園、奥伊勢宮川峡県立自然公園、吉野熊野国立公園に指定されており、国や県によって手厚く自然が保護されています。

地形

地形学的には、台高山脈は「壮年期」に位置づけられ、急峻な山々と深い峡谷が特徴です。大杉谷などの深い峡谷が山脈を刻み、一方で、大台ヶ原山は隆起準平原であり、山頂に平坦な地形が見られます。また、台高山脈は、三重県、奈良県、そして和歌山県にとって重要な水源であり、三重県側では櫛田川や宮川、奈良県側では吉野川（紀の川）や北山川（熊野川）の水源となっています。

主な山

台高山脈には、以下のような山々があります。

高見山（1248m）
国見山（1418m）
明神岳（1432m）
桧塚
桧塚奥峰（三重県側）
赤倉山（1394m）
池木屋山（1395m）
弥次平峰（1274m）
馬ノ鞍峰（1177m）
山ノ神ノ頭（1099m、奈良県側）
薊岳（1406m、奈良県側）
添谷山（1250m）
大台ヶ原山
三津河落山（1654m）
* 日出ヶ岳（1695m）

登山とその歴史

明治維新以前は、薬草採取などを目的とした入山者がわずかにいた程度でした。しかし、現在では多くの登山者が訪れるようになり、特に北部の高見山周辺は比較的アクセスしやすく人気があります。南の大台ヶ原山方面は、登山難易度が高く、一部で入山規制が設けられています。

地質

台高山脈の北端には、中央構造線が通っており、その北側は中生代の花崗岩類と変成岩からなる領家帯です。南側には、古生代の長瀞変成岩類、結晶片岩からなる三波川帯、砂岩、頁岩、チャート、石灰岩などからなる秩父層群が見られます。中央構造線沿いには圧砕岩が帯状に分布しています。

気候

台高山脈は、日本有数の多雨地帯であり、特に大台ヶ原の年間降水量は非常に多く、5000mmを超えることもあります。これは、三重県側の熊野灘沖を流れる黒潮の影響によるものです。

動植物

台高山脈の豊かな自然は、多様な動植物を育んでいます。奈良県南部の吉野林業地帯では、戦後に人工林化が進みましたが、台高山脈にはトウヒやブナなどの原生林が広がり、コケ類が地面を覆う「モスフォレスト」が見られます。特に西大台ヶ原のブナ林は太平洋側で最大規模であり、東大台ヶ原のトウヒ純林は日本の南限として、学術的価値が高いです。また、コウヤマキやサツキツツジ、アサマリンドウなど、貴重な植物も生育しています。

動物では、ツキノワグマやニホンカモシカなどの大型獣、オオダイガハラサンショウウオなどが生息しています。シカの個体数が多く、食害が問題となっています。また、モリアブラコウモリやミドリシジミ、ムカシトンボなどの小型動物も見られます。

文化

台高山脈は、古くから人々に親しまれてきました。柿本人麻呂が詠んだ歌に登場する「かぎろひ」は、台高山脈にかかる陽炎を指しているとも言われています。また、蝦夷地探検家の松浦武四郎は、大台ヶ原を深く愛し、遺言でこの地に埋葬されることを希望したほどでした。写真家の三木俊郎のように、台高山脈の四季を追いかける人もいます。

交通

台高山脈の登山道は、整備があまり進んでおらず、入山ルートも限られています。特に、三重県側からのルートは険しく、奈良県側からのルートが比較的緩やかです。山脈を越える主要な道路は、現在も高見峠越えの1本のみであり、この道は古くから大和国（奈良県）と伊勢国（三重県）を結ぶ重要なルートでした。

台高山脈は、その豊かな自然と歴史的な背景から、訪れる人々に深い感動と癒しを与えてくれる場所です。

もう一度検索