島田正郎

島田 正郎

日本の著名な東洋史学者および法制史学者であり、特に北アジア法史研究の第一人者として知られる島田正郎（しまだ まさお）氏は、長年にわたり明治大学で教鞭を執り、同大学の総長も務めた。1915年9月29日に東京市麹町区で生を受け、2009年11月23日にその生涯を終えた。

学歴と初期の研究活動

島田氏は旧制明治中学校（現在の明治大学付属明治高等学校）で学び、その後、1939年に東京帝国大学文学部東洋史学科を卒業した。卒業後には北京への留学を経験し、中国の歴史や文化に関する見識を深めた。帰国後の1942年には東方文化学院（東京研究所）の研究員となり、学術的な探求の道を本格的に歩み始める。さらに1947年には東京大学東洋文化研究所に籍を置き、研究者としての基盤を固めた。

明治大学でのキャリア

1948年、島田氏は明治大学専門部法律科の講師に就任し、以降、長きにわたり明治大学を教育と研究の拠点とした。専門部助教授を経て、1951年には法学部の教授に昇任。同年には、独創的な研究成果をまとめた論文「遼令の研究」により、明治大学から法学博士の学位を授与された。大学においては、教育・研究活動に加え、大学運営における要職を歴任した。1958年には図書館長として大学の学術情報基盤整備に貢献。1963年には付属明治高等学校・中学校の校長を務め、中等教育の現場にも関わった。1966年には法学部長として学部経営の手腕を発揮し、そして1984年から1992年までの8年間、明治大学の総長として大学全体の舵取りを行った。1988年に定年退職を迎えて名誉教授の称号を受けた後も、1991年から1992年には理事長代行を務めるなど、晩年まで大学への貢献を続けた。

学術的貢献と研究分野

島田正郎氏の学術的な功績は、東洋法制史、とりわけ北アジア法史の分野において極めて大きい。日本におけるこの分野の研究を牽引する第一人者として、遼、清朝、モンゴルといった北方民族の法制度に関する綿密な調査と分析を行った。法学博士号取得の契機となった「遼令の研究」は、その後の研究の基礎となるものであった。主要な著作には、『遼朝官制の研究』、『清朝蒙古例の研究』、『北方ユーラシア法系通史』などがあり、これらの研究は、遊牧国家や周辺地域の法制度を歴史的に位置づけ、東洋法制史学に新たな地平を切り拓いた。瀧川政次郎氏との共著である『遼律之研究』も、この分野における基礎文献として高く評価されている。

学会活動と地方史研究

学術振興への貢献は、教育機関内にとどまらなかった。法制史学会の理事や、日本モンゴル学会の理事および副会長を歴任し、関連分野の研究者間の交流や研究水準の向上に尽力した。また、専門である東洋法制史だけでなく、地方史研究にも深い関心を持ち、1952年には瀧川政次郎、安藤更生、駒井和愛といった著名な研究者たちと共に地方史研究所の設立に参画した。これは、地域史研究の重要性を認識し、その振興を図ろうとするものであり、氏の幅広い学問的視野を示すエピソードである。

著作活動

島田氏の研究成果は、生涯を通じて多数の著作として世に送り出された。『東洋法史要』、『遼代社会史研究』といった初期の代表作から始まり、『遼制之研究』、『契丹国 遊牧の民キタイの王朝』、そして長年の研究を集大成した『北方ユーラシア法系通史』に至るまで、その著作は多岐にわたる。また、中国古典新書シリーズの一環として『遼史』を著すなど、広範な対象に対する深い理解を示した。これらの著作は、後進の研究者にとって不可欠な研究資源となっている。

まとめ

島田正郎氏は、日本の東洋史学および法制史学界において、特に北アジア法史という独自の分野を確立し、その研究を深く推し進めたパイオニアである。教育者として多くの学徒を指導し、また明治大学の総長として学術機関の発展に尽力すると同時に、自身の研究においても多大な功績を残した。その学問への情熱と教育・大学運営への貢献は、今なお多くの人々に記憶されている。

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