崔杼

崔杼 - 春秋時代の権力者とその悲劇的な最期

崔杼（さいちょ、生没年不詳）は、中国春秋時代の斉で活躍した政治家であり、姜氏の公族です。恵公、霊公、荘公、景公と、複数の君主の治世に渡り、絶大な権力を掌握しました。しかし、その生涯は権力闘争と悲劇に満ちたものでした。

崔氏は、斉の始祖である太公望の子孫を祖とする名門でした。崔杼は若い頃より恵公の寵愛を受け、重用されました。しかし、恵公の死後、高氏や国氏といった他の有力な卿（大臣）たちの反発を買い、一時衛へと亡命を余儀なくされます。

霊公の時代、崔杼は斉へ帰還し、再び権勢を回復します。霊公は当初、公子光を太子としていましたが、寵愛する戎子とその子の公子牙を太子にしようとします。崔杼は密かに公子光を首都へ連れ戻し、霊公の重病に乗じて高厚と戎子を殺害。紀元前555年、公子光を荘公として即位させます。

しかし、荘公と崔杼の後妻の間で密通が発生。激怒した崔杼は紀元前548年、家臣を率いて荘公を殺害するという弑君(しきゅう)の重罪を犯します。この事件は中国の歴史に大きな衝撃を与えました。

荘公の後には、その弟である公子杵臼が景公として即位します。崔杼は慶封と共に権力を握り、反対勢力を排除しようと試みます。斉の賢臣として知られる晏嬰も崔杼に従うよう圧力をかけられますが、晏嬰はこれを拒否。しかし、崔杼は晏嬰を殺害することはしませんでした。

その後も景公を傀儡として政治を続ける崔杼でしたが、家庭内では前妻の子と後妻の子の間で対立が激化。慶封も権力掌握を狙って介入し、内紛はさらに拡大していきます。最終的に崔氏一族は内紛によって壊滅し、崔杼自身も自害して生涯を終えました。

崔杼の弑君事件は、『春秋左氏伝』に詳しく記録されています。特に、この事件を記録しようとした太史とその兄弟たちの物語は有名です。崔杼は太史が事件を記録すると、それを書き直すよう強要し、従わない太史を殺害しました。しかし、次の太史も、その弟も、同じ事実を記録し続け、最終的には崔杼は彼らの行動を諦めました。この物語は、歴史記録の重要性と、真実を伝える史官たちの強い意志を示す象徴的なエピソードとして後世に伝えられています。

崔杼は、権勢を振るった政治家としてだけでなく、弑君という重大な罪を犯した人物としても、そして史官との対決を通じて歴史に名を刻んだ人物としても知られています。晏嬰との関係や、家庭内の対立、慶封との権力争いなど、様々な要素が絡み合い、崔杼の生涯はドラマチックで、そして悲劇的なものとなりました。彼の物語は、権力の脆さと、歴史の重みを私たちに教えてくれるでしょう。

もう一度検索