晏嬰

晏嬰（あん えい）

晏嬰（? - 紀元前500年）は、中国春秋時代の斉に仕えた政治家であり、管仲と並び称される名宰相として知られています。氏は晏、諱は嬰、字は仲、諡は平。その卓越した才能と人格は、後世に多大な影響を与えました。

人物像

『史記』によれば、晏嬰は身長が135cmに満たない小柄な人物でしたが、その体には国家を思う熱い心が宿っていました。常に国家の利益を第一に考え、君主に対しても臆することなく諫言を繰り返しました。質素な生活を送り、一枚の狐の毛皮の服を30年も着続けたという逸話は、彼の倹約ぶりを象徴するものとして語り継がれています。

生涯

霊公への諫言

最初に仕えた霊公の時代、斉の都で男装が流行しました。霊公はこれを禁じようとしましたが、自らの妃が男装をしていたため、効果がありませんでした。晏嬰は霊公に「牛の頭を看板に掲げ、馬の肉を売るようなものです」と諫め、宮廷から禁止することで流行を鎮めました。この逸話が「羊頭狗肉」という故事成語の由来となっています。

また、晋との戦いで敗北し、霊公が逃亡しようとした際には、袖を掴んで必死に諫めました。霊公が怒って剣を抜こうとすると、「私を斬る勇気があるなら、敵と戦ってください」と訴えました。しかし、霊公は聞き入れず、都へと逃げ帰りました。

荘公への諫言と隠遁

次の荘公の時代には、晋の権力争いに敗れた欒盈が斉へ亡命してきました。荘公は欒盈の復讐に手を貸そうとしましたが、晏嬰は反対しました。度重なる諫言に荘公は不快感を示し、晏嬰は職を辞して故郷に隠遁しました。

崔杼による荘公殺害と晏嬰の行動

荘公は、相の崔杼の妻と密通していました。怒った崔杼は荘公を殺害し、晏嬰は駆けつけました。忠義を示すか、崔杼に従うかの選択を迫られた晏嬰は、型通りの弔いの儀式だけを行い、その場を去りました。崔杼は晏嬰を殺そうとしましたが、民衆からの人気を恐れて思いとどまりました。

その後、崔杼は慶封と共に景公を擁立し、反対勢力を抑圧しようとしました。晏嬰は「君主に忠誠を尽くし、国家の利益になる者に従う」と宣言し、その姿勢は彼の名を不朽のものとしました。

景公への諫言と宰相就任

崔杼と慶封が滅亡した後、晏嬰は景公に信任され、宰相に就任しました。司馬穰苴を推薦するなど、有能な人材を登用し、国政を立て直しました。

紀元前540年には、晋への使節として赴き、羊舌肸と会見しました。晏嬰は、田氏一族が民衆に恩恵を施し、人気を集めていることを指摘し、将来的に斉が田氏に取って代わられる可能性を示唆しました。その言葉は、約150年後に現実のものとなります。

楚との外交

楚への使節として赴いた際には、楚の霊王に侮辱されそうになりました。楚の者は晏嬰の背が低いことを嘲り、城門の脇にある狭い戸から入るように促しました。晏嬰は「犬の国ではないので、そのような門は通れない」と拒否し、正門から入城しました。

霊王は晏嬰を見て「斉には人がいないのか」と尋ねました。晏嬰は「斉の都には多くの人々がおり、袖を広げれば日が遮られ、汗を流せば雨になるほどです。私が使節に選ばれたのは、私が最も不肖の人物だからです」と答えました。

宴席では、罪人として捕らえられた斉の者が引き出されました。霊王が「斉人は盗みが性分なのか」と尋ねると、晏嬰は「江南の橘を江北に植えると枳になるように、斉人も楚に来れば盗みを働くようになるのです」と答えました。この逸話が「南橘北枳」という故事成語の由来となっています。

死

晏嬰は紀元前500年に亡くなりました。景公は晏嬰の死を深く悲しみ、自ら棺を担ごうとしました。晏嬰の死後、「平」という諡号が贈られ、晏平仲と呼ばれるようになりました。

評価

晏嬰は、斉の宰相として、管仲と並び称される名宰相として評価されています。司馬遷は『史記』において、晏嬰を管仲と共に列伝の最初に置き、その才能と人格を高く評価しました。また、晏嬰の言行録である『晏子春秋』には、彼の様々な逸話が収録されています。

孔子は晏嬰を「人と善く交わる」と評価する一方で、彼に対して否定的な評価もしています。孟子も晏嬰を認めず、「覇道によって天下を治めるのは自分の目指すところではない」と述べています。

逸話

晏嬰には、3人の勇士を2つの桃で殺したという逸話があります。晏嬰は、驕り高ぶる3人の勇将を退けるため、2つの桃を用意し、功績のあった者から食べるように言いました。功績を巡って争った3人は、互いに恥じ入って自殺し、晏嬰は手を汚すことなく彼らを排除することに成功しました。

後世への影響

晏嬰は、その卓越した才能と人格によって、後世に多大な影響を与えました。彼の質素な生活ぶりや、君主への諫言を厭わない姿勢は、多くの人々の模範となりました。また、彼の逸話は、故事成語や文学作品として、現代にも受け継がれています。

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