川口久雄

川口久雄：平安朝漢文学から比較文学へ、そして敦煌へ至る学問の軌跡

川口久雄（1910年-1993年）は、日本の国文学、比較文学研究において重要な足跡を残した学者です。専門は平安朝漢文学と日中比較文学であり、その博大な知識と深い洞察力は、数々の著作や研究活動に反映されています。東京文理科大学国文科卒業後、陸軍予科士官学校や金沢高等師範学校での教職を経て、金沢大学法文学部教授に就任しました。

学問への貢献は多岐に渡ります。平安朝漢文学を主たる研究対象としながらも、その関心は漢文学にとどまらず、ヨーロッパ文学、ロシア文学、イギリス文学へと広がり、比較文学の領域を開拓しました。特に、日本文学の海外における受容に関する研究は先駆的なものであり、その後の研究に大きな影響を与えました。代表的な著作である『西域の虎』は、和漢比較文学の分野における名著として高く評価されています。

川口の学問的姿勢は、単なる専門分野の深耕にとどまらないものでした。西洋文芸にも造詣が深く、幅広い知識を駆使して独自の視点から研究を進めました。その多様な関心は、彼自身の著作にも反映されており、平安時代の漢文学から敦煌文献、そして近代日本文学まで、多様なテーマを扱った著作を数多く残しています。没後も、敦煌に関する著作が多数刊行されており、その研究の深さと重要性が改めて認識されています。また、新発見の『古本説話集』をいち早く紹介するなど、時代の最先端を捉える鋭い感性も持ち合わせていました。

金沢大学在職中には、大学紛争の発端となる出来事に関わったことも知られています。助手の履免問題が、学生運動の引き金になったという経緯があります。この出来事については、当時学生であった木越治氏による証言があり、川口教授の学問への姿勢と、人間性との複雑な関係を示唆しています。木越氏は、川口を「学者としてはとても優秀な人」と評しつつも、個人的な感情を交えて批判的な見解を示しています。このエピソードは、川口という人物像を理解する上で、重要な側面を示していると言えるでしょう。

川口久雄は、学問への貢献と、大学紛争に関与したという複雑な経歴を持つ人物です。しかし、彼の残した著作群は、日本の国文学、比較文学研究に大きな足跡を残しており、その功績は今もなお高く評価されています。平安朝漢文学、日中比較文学、そして敦煌研究にまで及ぶ、その広範な研究成果は、後世の研究者たちに多大な影響を与え続けています。彼の生涯と業績は、学問の探求と、社会との関わりという、複雑な問題を投げかける、重要な事例と言えるでしょう。

主な著書・編著・校注等

川口久雄は数多くの著作を残しており、その内容は平安朝漢文学、比較文学、敦煌研究など多岐にわたります。主な著書には、『平安朝日本漢文学史の研究』『大江匡房』『西域の虎』『花の宴』『絵解きの世界　敦煌からの影』『平安朝の漢文学』『漱石世界と草枕絵』『日本列島の原風景』シリーズ、『源氏物語への道』、『平安朝漢文学の開花』、『敦煌よりの風』シリーズなどがあります。また、『古典の変容と新生』などの編著や、『古本説話集』『日本古典文学大系』など多くの古典作品の校注にも携わっています。これらの著作は、彼の深い学識と鋭い洞察力を示すものであり、現在も多くの研究者によって参照されています。1961年には中日文化賞を受賞しており、その学問的業績は高く評価されています。

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