金沢高等師範学校

金沢高等師範学校は、1944年（昭和19年）3月に石川県金沢市に設立された、官立の中等学校男子教員養成機関です。略称は金沢高師と呼ばれています。この学校は、現在の金沢大学教育学部の前身であり、同大学の理学部や法文学部（後の法学部・文学部・経済学部）も、その流れを汲んでいます。

概要

金沢高等師範学校は、1944年3月18日に「高等師範学校官制」の改正（勅令第132号）によって設立されました。設立の背景には、当時の戦争による社会情勢の悪化がありました。大学卒業者が減少し、中等学校の教員が不足したため、急遽、高等師範学校を増設する必要が生じたのです。特に、理工系の人材不足が深刻で、その養成が急務となっていました。

沿革

1925年2月28日 - 高等師範学校の金沢誘致運動が、県と市合同で展開されました。
1944年3月 - 勅令第132号により設立。金沢市から中村町国民学校の校舎と敷地の寄付を受けました。当初は、理科のみが設置され、1部数学科、2部物象科、3部生物科で構成されていました。
1944年4月10日 - 開校。
1944年5月 - 第1回入学式が行われました。
1944年12月 - 文部省の指定により、特別科学教育研究班が設置されました。
1945年1月 - 文部省の英才教育実施措置要綱に基づき、特別科学学級の始業式が行われました。
1945年5月 - 沖縄戦における学徒出陣要請嘆願騒動が発生しました。
1945年10月 - 校旗と校歌が制定され、学友会と一真会が結成されました。
1947年3月 - 文科（1部英語科、2部地歴科）が設置されました。
1948年 4月1日 - 附属高等学校（新制）が併置され、最後の第5回入学式が行われました。
1949年 5月31日 - 新制金沢大学に包括され、金沢大学金沢高等師範学校と改称されました。附属高等学校は、教育学部の附属となりました。
1952年 3月9日 - 最後の卒業式が挙行されました。
1952年 3月31日 - 閉校。

設置学科

金沢高等師範学校の理科は、3部に分かれており、1部が数学、2部が物象（物理化学）、3部が生物でした。各部の生徒定員は30名で、合計90名でした。1947年からは、理科に加えて文科（1部英語、2部地歴）が設置されました。

東京高等師範学校には文科、理科、体育科、芸能科が、広島高等師範学校には文科、理科が、東京女子高等師範学校には文科、理科、家政科、体育科が、奈良女子高等師範学校には文科、理科、家政科が置かれていました。それに対し、後発の金沢高等師範学校と岡崎高等師範学校は理科のみでした。これは、戦時体制下で重視されていた科学戦に対応するための、理数系教育を担う教員の養成を強化するためでした。

卒業生数

1948年（昭和23年）に最初の卒業生72名が卒業し、1952年の第5回卒業生まで、合計415人の卒業生を送り出しました。

特別科学教育班

1945年12月26日付けの文部次官通牒により、「特別科学研究班」が設置されました。これは、「我が国科学及び技術の飛躍的向上に資する目的」をもって、全国各地の科学に才能を持つ児童・生徒を組織し、緊急に英才教育を実施しようとするものでした。

設置されたのは、東京、広島、金沢の各高等師範学校と東京女子高等師範学校の4校でした。金沢高等師範学校では、1945年から国民学校初等科第4学年1学級（約15名）と中学校第1学年1学級（約15名）を皮切りに、附属の「特別科学学級」を発足させ、科学技術に優れた児童・生徒を教育することになりました。実際には、1クラスの児童生徒数は20数名在籍していました。

これらの児童・生徒は、1クラスのため直接附属学校の形をとることができず、初等科生徒は石川師範学校男子部附属国民学校に、中等科生徒は石川県立金沢第一中学校に委託設置されました。

この「特別科学学級」の入学者選抜範囲は、北陸（新潟を含む）4県を中心とし、必要に応じて東海、近畿の各府県からも推薦が可能でした。児童・生徒は、「学徒勤労動員の場合でも学習を継続できるように配慮」され、中学校卒業時には「現行法規に制約されることなく、その力量や希望に応じて上級学校に進学できる道」が開かれました。さらには、彼らの進学のために「国家として科学技術要員を養成する特殊機関を設ける」ことさえ構想されていました。

歴代校長

東京高等師範学校長は東京文理科大学教授から、広島高等師範学校長は広島文理科大学教授から、それぞれ文部大臣が任命しましたが、金沢高等師範学校の場合は直属大学がなかったため、校長は勅任とされました。

初代：倉林源四郎（1944年4月 - 1945年6月）
文部省図書監修課長より転任。
2代：塩野直道（1945年6月 - 1947年9月）
文部省図書監修官第二編修課長より転任。
3代：庄司彦六（1947年9月 - ）
元台北帝国大学教授・工学部長。

著名な関係者

教職員

太田時男 - 物理学者、第10代横浜国立大学学長
佐口透 - 歴史学者、金沢大学名誉教授
水上一久 - 歴史学者、元金沢大学教授
今堀宏三 - 生物学者、日本生物教育学会会長、福井県立短期大学（現福井県立大学看護短期大学部）学長、鳴門教育大学学長、広島女子大学（現県立広島大学）学長
川口久雄 - 国文学者、比較文学者、金沢大学法文学部教授

出身者

黒川逍 - 植物学者、菌類学者
渡辺仁治 - 陸水学者、元奈良女子大学教授、日本珪藻学会名誉会長

校地の変遷

金沢市から中村町国民学校の校舎・敷地の寄附を受けて開校しましたが、1946年9月には同市野田町180番地（山砲隊跡、現・陸上自衛隊金沢駐屯地）に移転しました。

学生寮年表

1944年5月7日 - 金沢高等師範学校寄宿舎として、金沢市犀川下川除町元料理店「川新」を代用することに契約し、全生徒を収容しました。
1944年9月19日 - 金沢市西御影町石川県蚕業試験場の建物と敷地、桑園を寄宿舎並びに研究作業園として借用し、同建物の一部を第二寮として生徒の一部を収容しました。
1945年9月23日 - 寄宿舎として使用していた「川新」の借入契約を解除し、生徒の外泊を許可、入舎希望者は石川県蚕業試験場内の宿舎に収容しました。
1946年5月30日 - 富士真空株式会社所有の金沢市木曽町社員寮を第二寮として借り受け、生徒の一部を収容しました。
1946年9月25日 - 校舎の金沢市野田元第52部隊（山砲隊）兵舎への移転に伴い、兵舎の一部と酒保下士官集会所を寄宿舎にあて、五誓寮と称しました。
1949年 5月31日 - 新制金沢大学設立に伴い、同大学の所管に編入されました。
1950年12月14日 - 国家警察予備隊の金沢駐留のため、本校舎敷地を移転。五誓寮は金沢市立野田中学校々舎（現金沢大学附属高等学校）の一部を改装して移転しました。
1952年 - 旧制高等師範学校の最後の卒業生を送り出しました。

附属学校

詳細は「金沢大学附属高等学校・中学校」を参照してください。

同窓会

金沢高師同窓会（現在は金沢大学教育学部同窓会）。会誌「無限」を発行しています。

参考文献

金沢大学
金沢大学五十年史
金沢大学資料館
金沢大学の歩み

外部リンク

金沢大学
 金沢大学五十年史
 金沢大学資料館
* 金沢大学の歩み

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