川喜多長政

川喜多長政の生涯

川喜多長政は、1903年（明治36年）4月30日に東京で生まれ、1981年（昭和56年）5月24日に78歳で亡くなった映画製作者、輸入業者です。国際的な映画人として、特にアジアで絶大な信用を得ていました。妻である川喜多かしこも国際的に著名な映画人で、「日本映画の母」と呼ばれています。娘の和子（伊丹十三の最初の妻）とともに、「川喜多家の三人」として知られています。長政の名前は、歴史好きの父が山田長政にあやかって、アジアでの活躍を願って名付けたと言われています。

映画界への貢献

川喜多長政は、映画界に多大な貢献をしました。彼の功績を記念して、財団法人『川喜多記念映画文化財団』が設立され、日本映画の芸術文化の発展に貢献した映画人に対し、毎年「川喜多賞」が贈られています。

また、鎌倉市にある川喜多邸宅跡は改修され、鎌倉市川喜多映画記念館として2010年4月に開館しました。この記念館は、川喜多家が土地を寄付し、鎌倉市が建設費を負担して設立されたものです。運営は川喜多財団が行っています。

生い立ちと青年期

長政の父、川喜多大治郎は陸軍大尉で、日露戦争で活躍した軍人でした。1906年、清国政府の要請で北洋軍官学校の教官として中国に赴任しましたが、1908年、北京で憲兵に襲撃され射殺されました。

長政は、東京府立四中（現、東京都立戸山高等学校）を卒業後、北京大学、そしてドイツに留学しました。帰国後、映画会社ウーファの代理人を経て、1928年に東和商事（現東宝東和）を設立しました。その後、同社に入社した竹内かしこ（後の川喜多かしこ）と結婚し、夫婦で世界中を買い付けに回りました。

中華電影設立と上海での活動

1939年、陸軍は長政に、日本軍支配地域の映画配給会社の日本側代表を依頼しました。日独合作、日中合作映画の製作・配給実績、中国語の堪能さ、そして幅広い人脈が買われたためとされます。長政自身は、中国との友好の架け橋になりたいと語っていますが、父の死も要因の一つとする説もあります。

長政は、1939年6月27日に設立された中華電影股份有限公司（中華電影）の専務董事に就任しました。本社を共同租界に置き、映画製作については中国人のプロデューサーである張善琨に一任しました。張善琨は、上海の大学を卒業後、やくざ社会を経て映画界の大立者となった人物です。長政は彼のプロデューサーとしての手腕を高く評価し、信頼を寄せました。

上海での苦難

中華電影は、日本の国策映画を製作する一方で、娯楽作品も多く製作しました。これは、中国人のスタッフが日本と中国の間で板挟みになっていたため、比喩的に日本を非難するか、娯楽作品を作るしかなかったからです。長政は、彼らの苦渋と屈辱を理解し、最後まで保護しました。

1941年、上海の租界全域を日本軍が占領し、状況はより厳しくなりましたが、多くの中国人スタッフは長政を信頼し、上海映画界に残りました。
1944年には、張善琨が憲兵に拘束されますが、長政は彼を釈放させます。翌年、張は重慶へ逃亡しました。敗戦後、長政は家族を先に帰国させ、自身は上海で残務整理をしていましたが、山口淑子が漢奸として処刑されると聞くと、彼女の救出に尽力し、1946年に山口とともに日本に帰国しました。

戦後の活躍

1947年には公職追放とされますが、世界中のユダヤ人や中国人の弁護によって1950年に復帰しました。その後は、経営者として辣腕を振るいながら、妻のかしこの世界的な文化事業をバックアップしました。

川喜多長政は、ヴェネツィア国際[[映画祭]]に黒澤明監督の『羅生門』を携えて参加したとされますが、実際には出席していません。1964年10月28日、藍綬褒章を受章。1968年3月28日にはフランスからレジオンドヌール勲章シュヴァリエを、1973年11月3日には勲二等瑞宝章を受章しました。また、イタリアからイタリア共和国功労勲章コンメンダトーレを授与されています。

1981年5月24日、肝硬変により78歳で亡くなりました。正四位に叙せられ、銀杯一組が賜与されました。

張善琨との友情

張善琨は戦後もアジアの大プロデューサーとして活躍しましたが、東京で亡くなりました。長政は、張の葬儀で「自分が上海にいる時は、いつどこで撃たれて死ぬかわからないと思っていた。その時は張や親しい中国の友人に護られて葬られると思っていた。しかし、生き残った自分が君を葬ることになるとは」と弔辞を述べましたが、参列者の多くはこの言葉の意味を理解できなかったとされています。

長政の生涯は、映画に対する情熱と、国際的な友好に尽くした人生でした。

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