川島真

日本の学術界において、アジア政治外交史の分野で重要な役割を担う研究者の一人に川島真氏が挙げられます。1968年に東京都で生まれた川島氏は、現在、東京大学大学院総合文化研究科の教授として、活発な研究活動を展開しています。

川島氏の学問的キャリアは、筑波大学附属駒場高校を卒業後、東京外国語大学外国語学部で中国語を修めたことに始まります。さらに、東京大学大学院に進学し、人文科学研究科で東洋史を深く学びました。博士課程を単位取得満期退学後、2000年には「中華民国前期外交史研究」により東京大学から博士（文学）の学位を取得しています。研究者としての初期は、日本学術振興会特別研究員を経て、1998年に北海道大学法学部で助教授を務めました。その後、2006年に東京大学大学院総合文化研究科に移籍し、国際社会科学専攻において助教授、准教授を歴任し、2015年からは教授として教鞭をとっています。

川島氏の活動は国内にとどまらず、国際的な学術交流にも積極的に携わっています。中央研究院近代史研究所（台湾）や北京日本学研究中心（中国）、北京大学（中国）、国立台湾大学など、アジア各国の主要な研究機関で客員研究員や客員助教授として在外研究・教育に従事しました。また、アメリカのWoodrow Wilson International Center for Scholarsでのフェロー経験もあり、その研究ネットワークは広範にわたります。

学術団体においては、日本現代中国学会の理事長や東アジア近代史学会の副会長、アジア政経学会の副理事長などを務め、関連分野の発展に貢献しています。さらに、研究者としての知見を活かし、政府や公共機関における重要な役職を歴任してきました。内閣府の国家安全保障局顧問やシニア・フェロー、21世紀構想懇談会委員、公文書管理委員会委員などを務めたほか、外務省の外交文書公開促進委員会委員や日本台湾交流協会評議員としても活動しています。これらの活動は、日本の政策決定や国際関係の構築において、学術的な視点を提供するものです。メディア関連では、朝日新聞論壇合評委員や、国内外のウェブサイト・雑誌の編集委員なども務め、専門知識を社会に向けて広く発信しています。

研究成果は、数多くの著作として発表されています。特に、2004年に出版された単著『中国近代外交の形成』は、その学術的価値が認められ、サントリー学芸賞（政治経済部門）を受賞しました。この著作は中国語にも翻訳され、中国国内でも高い評価を得ています。また、2023年には、長年にわたる中国における日本研究の促進への貢献が評価され、外務大臣表彰を受賞しました。

川島氏の著作は、単著以外にも共著、編著、共編著、共訳と非常に多岐にわたります。『近代国家への模索』、『21世紀の「中華」』、『中国のフロンティアー揺れ動く境界から考える』といった単著に加え、『日台関係史』、『日中関係史』、『東アジア近代史通史』など、多くの国内外の研究者との共同研究による成果を公にしています。これらの著作は、現代東アジアの複雑な情勢や歴史を理解する上で貴重な資料となっています。

個人的な側面では、川島氏は日本の学術・文化史に名を連ねる家系の出身でもあります。箕作阮甫に始まる箕作家の末裔にあたり、人類学者の坪井正五郎を曾祖父に、地球物理学者の坪井忠二を祖父にもちます。美濃部達吉・亮吉父子や医学者の島薗順次郎、宗教学者の島薗進らとも縁戚関係にあり、その学術的な背景の深さがうかがえます。

このように、川島真氏は、アジア政治外交史研究の第一人者として、東京大学での研究・教育活動、国内外の学術・公共分野での多岐にわたる貢献、そして多数の質の高い著作を通じて、日本のこの分野における学術的発展と社会への貢献に大きく寄与しています。

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