工藤巌

工藤巌：教育への熱い思いと積極財政政策の功罪

工藤巌（1921年-1998年）は、日本の政界において独特の足跡を残した人物です。岩手県知事、衆議院議員、盛岡市長という要職を歴任し、特に文教政策への深い造詣と積極的な政策推進で知られています。その生涯と、特に岩手県政における功績と課題を詳細に見ていきましょう。

盛岡市長から国政へ、そして知事へ

盛岡中学校、第一高等学校、東京大学法学部を卒業後、岩手県立盛岡高等学校の教師を経て岩手県庁に入庁。企画部長などを務めた後、1969年、盛岡市長に当選します。3期目の途中で国政への転進を決意し、1979年、衆議院議員選挙に出馬、初当選を果たします。

衆議院議員時代には、自由民主党河本派に所属し、国土政務次官、文部政務次官、衆議院文教委員長など要職を歴任。文教委員会委員長としての経験は、後の知事時代の教育政策に大きく影響を与えたと考えられます。

1991年、岩手県知事選挙に出馬し当選。知事としての5年間は、彼の政治家人生における重要な転換期となりました。

知事時代：積極財政と岩手県立大学設立

工藤知事の県政は、大胆な積極財政政策によって特徴づけられます。特に1992年度予算以降、バブル崩壊後の厳しい経済状況の中でも財政支出を増やし続けました。この積極的な姿勢は、1994年に着手された岩手県立大学設立構想にも表れています。

当初、看護学部のみの単科大学を計画していましたが、工藤知事は、県民の教育機会の拡大という観点から、総合大学への変更を決定しました。この決断は、県民の高等教育へのアクセスを飛躍的に向上させました。首都圏の大学進学に伴う経済的負担を軽減する狙いもあったと推測されます。実際、この10年で岩手県の大学進学率は10%近く上昇し、30%台に達するなど大きな成果を収めました。

しかし、この積極財政政策は、現在の岩手県の財政状況に影響を与えたという見方もあります。県立大学の年間運営費は60億円にのぼり、この資金を奨学金に充てるべきだったという意見もあったほどです。彼の政策は、長期的な財政健全性とのバランスが課題であったと言えるでしょう。

教育への強い信念

工藤知事は、教育政策に深い関心を持ち、特に地方における教育の重要性を強く訴えていました。貧しい県だからこそ教育に投資する必要があるという信念を持ち、岩手県立大学の設立に尽力したと考えられます。退任会見での「昔は県民所得全国最下位の岩手が30番台になった」という言葉には、彼の教育に対する揺るぎない情熱が感じられます。

惜しまれつつ幕を閉じる

健康上の理由から、知事1期で退任。後任には、小沢一郎氏の推薦で増田寛也氏が就任しました。退任に際し、後任の増田氏に「県立大構想だけはよろしく頼む」と託したというエピソードは、工藤氏の教育への強い想いを象徴する出来事です。

1994年には勲二等旭日重光章を受章。1998年、呼吸不全のため76歳で死去しました。

まとめ

工藤巌は、積極的な財政政策と教育への強い信念に基づいた政治家でした。岩手県立大学の設立は、彼の功績として高く評価される一方、その財政政策については賛否両論あります。彼の政治家人生は、地方の活性化と教育の重要性を訴え続けた、波乱に満ちたものでした。彼の功績と課題は、今後の地方行政を考える上で貴重な教訓となるでしょう。彼の父は作家宮沢賢治と親交があったという点も、興味深い事実です。

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