工藤忠

工藤忠:激動の時代を駆け抜けた大陸浪人、そして満州国皇帝の忠臣



工藤忠(くどう ちゅう、1882年12月10日 - 1965年12月18日)は、初名を工藤鉄三郎といい、後に満州国皇帝溥儀から「忠」の名を賜り改名しました。明治大正昭和の激動の時代を、アジア主義者、大陸活動家、そして満州国の政治家として生きました。最終階級は満州国侍衛処長、宮内府顧問官。

生い立ちと大陸への志


青森県北津軽郡板柳町で富農の三男として生まれた工藤は、東京で陸羯南の影響を受け、大陸問題に関心を抱くようになります。順天中学校卒業前に一度大陸へ渡り、1905年には専修学校を中退後、山田良政を慕いサハリン経由で中国へ渡りました。中国では革命運動に身を投じ、その後、清朝の復辟運動にも関与しました。東亜同文会の辺境通信員としては、貴重な記録も残しています。

満州国での活躍


1928年張作霖爆殺事件では、事件の詳細情報をいち早く日本政府首脳に伝えました。1931年には、溥儀の天津脱出を助け、満州まで随行。軍歴がないにもかかわらず、1932年に満州国侍従武官(中将)に就任、その後、侍衛長として溥儀を護衛しました。関東軍が工藤を排除しようとした際、溥儀は彼を擁護し、その忠誠心を称え「忠」の名を与えました。1935年には、戸籍上も工藤忠と改名しています。

人柄と活動


工藤は、同郷の青森県出身者をよく世話したため、新京の自宅は「浪人長屋」と呼ばれていました。1942年には、中国国民党との停戦を求める建白書を東条英機内閣に提出。戦後、東京裁判では溥儀を擁護し、その著書『皇帝溥儀』を出版しました。晩年には、アジアへの謝罪のため台湾を訪問しています。

溥儀からの信頼


溥儀は、関東軍の傀儡であったにも関わらず、工藤は常に溥儀の意向を尊重し、忠誠を尽くしました。溥儀自身も、著書「わが半生・下巻」で工藤への深い信頼を語っており、工藤を「皇上陛下」と呼び、関東軍の横暴に不満を漏らす唯一の日本人だったと述べています。溥儀は、工藤の忠誠心に感激し、「忠」の名を贈ったとされています。

エピソード


サハリン経由で大陸に渡る際、凍結した間宮海峡を徒歩で横断した。
日露戦争直前、ハルビンでの破壊工作に参加を試みるも、脚気のため断念。
1935年、溥儀が来日した際、満州国皇帝の特使として川島芳子邸を訪問。
戦後、東京裁判では新聞記者を装い溥儀の証言を傍聴。

栄典と生家


1937年、勲五等瑞宝章を受章。
2007年、生家が「工藤忠閣下生家・皇帝の森」として開館。

著作物


『皇帝溥儀 私は日本を裏切ったか』
「皇帝溥儀は何を考えていたか」

工藤忠は、激動の時代を生き抜き、満州国皇帝溥儀への忠誠を貫いた人物として、その生涯は多くの人々に語り継がれています。

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