左賢王

左賢王（さけんおう）

左賢王は、古代北アジアから中央アジアにかけて存在した遊牧国家、匈奴の国制における地位・称号の一つです。匈奴では右賢王と共に単于に次ぐ地位にあり、国家運営において重要な役割を担っていました。

概要

匈奴の統治体制は、中国の制度に例えるならば、皇帝に相当する単于を頂点とし、その下に左右賢王、左右谷蠡王、左右大将、左右大都尉、左右大当戸、左右骨都侯といった地位が設けられていました。これらの役職はそれぞれ1万騎から数千騎を擁し、全体で24の長が存在していました。

左右賢王は、その中でも特に地位が高く、支配する領土も最大規模でした。24の長の下には、千長、百長、什長、裨小王、相、都尉、当戸、且渠といった部下がおり、組織的な統治が行われていたことが窺えます。

特に、左賢王は単于の後継者候補が就く地位であり、中国の制度における皇太子に相当します。これは、左賢王が単なる高位の役職ではなく、国家の将来を担う重要な存在であったことを示唆しています。

左右賢王の「賢」という言葉は、匈奴の言葉である「屠耆」を翻訳したものです。

また、左賢王をはじめとする「左」が付く地位の者は、東方に陣を構えていました。

百済への影響

興味深いことに、匈奴の制度は百済にも影響を与えています。458年、百済の蓋鹵王は、南朝の宋に対して重臣11人の任官を要請しましたが、その中に百済の左賢王・右賢王という王号を帯びた人物が含まれていました。

これらの左賢王・右賢王は、百済王との血縁関係が非常に近い人物であり、特に左賢王余昆は蓋鹵王の弟である昆支であると考えられています。もしそうであれば、余昆は血縁的に蓋鹵王に最も近い人物と言えるでしょう。右賢王余紀もまた、左賢王と同様に蓋鹵王に近い血縁者であった可能性が高いと考えられています。

鄭東俊は、百済の左賢王・右賢王という制度が、華北の遊牧民系王朝で使用されていたものが南朝を通じて百済に伝えられたという説を提唱しています。

まとめ

左賢王は、匈奴における重要な地位であり、単于の後継者候補として、また軍事的なリーダーとして、国家の運営に深く関わっていました。その制度は、遠く離れた百済にも影響を与え、古代東アジアの政治・文化交流の一端を示す事例と言えるでしょう。

脚注

『史記』巻百十・匈奴列伝
『漢書』巻九十四・上・匈奴伝上

関連項目

* 右賢王

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