巨勢派

巨勢派：平安から明治へ繋がる絵師一族

巨勢派は、平安時代初期から明治時代まで続く、日本美術史において重要な役割を果たした絵師の一族です。単一の画風というよりは、巨勢金岡を始祖とする家系、いわば絵師一族の系譜を指す呼称と言えるでしょう。

巨勢派は、鎌倉時代までは主に宮廷絵師として活動し、仏画を中心とした作品を数多く制作していました。しかし、時代が下るにつれて他の画派の影響を受け、次第にその地位は低下していきます。転機となったのは、第12世巨勢永有が興福寺大乗院の絵仏師となったことです。以降、巨勢家は代々大乗院の絵仏師を継承し、家系の存続と技法の伝承を担いました。室町時代末期まで大乗院の絵仏師としての記録が残っていますが、江戸時代にも巨勢家が同職にあったと推測されています。

巨勢派の特徴として特筆すべきは、その系譜の途絶えなさと、後世への影響力の大きさです。巨勢派は、単なる絵師集団ではなく、代々技法を継承し、独自の伝統を築き上げた一族と言えるでしょう。その系譜は、宮廷絵画から仏画、そして近代日本画へと、時代の変化に合わせて柔軟に適応しながら発展を遂げてきました。

特に注目すべきは、巨勢公望の門人である春日基光が土佐派の流祖となった点です。巨勢派と土佐派の繋がりは、日本絵画史における重要な一側面であり、両派の交流や影響関係を解明することは、日本美術史全体の理解を深める上で不可欠です。

巨勢派歴代

以下に巨勢派の歴代を、それぞれの活躍時期や代表作などを交えながら簡単に紹介します。

第1世 巨勢金岡 (こせの かなおか): 大和絵の創始者の一人とされ、その家系は古代豪族である巨勢氏に連なります。貞観から延喜年間(859～901)にかけて活躍しました。
第2世 巨勢相覧 (こせの おうみ): 金岡の長子。『源氏物語』の「絵合」の段に登場する、竹取物語の絵を描いた人物として知られています。
第3世 巨勢公忠 (こせの きんただ): 金岡の次子。天暦3年(949年)に皇命により御屏風を描いたと記録されています。
第4世 巨勢公望 (こせの きんもち): 金岡の三男。『源氏物語』の「絵合」にも登場します。
第5世 巨勢広貴 (こせの ひろたか): 公望の子孫にあたります。長保4年(1002年)に花山上皇の命を受け、絵画を制作したと伝えられています。
第6世～第11世: 巨勢是重、巨勢信茂、巨勢宗茂、巨勢益宗、巨勢有宗、巨勢宗久と、系譜は途絶えることなく続きます。
第12世 巨勢永有 (こせの ながもち): 興福寺大乗院の絵仏師となり、巨勢派の新たな転換期を築きました。
第13世～第23世: 巨勢光康、巨勢有家、巨勢有康、巨勢堯尊、巨勢堯儼、巨勢有誉、巨勢行有、巨勢専有、巨勢源有、巨勢重有、巨勢長有と、大乗院絵仏師として活躍しました。この時代は、仏画制作を中心に活動したと推測されています。
第32世 巨勢金親 以降も巨勢家は絵師の伝統を継承し、明治時代までその系譜は続きます。
第33世 巨勢小石 (こせ しょうせき): 本名八田金起。東京美術学校（現東京芸術大学）教授として活躍した人物です。仏画の伝統を受け継ぎながらも、土佐派の画法も学んだことで知られています。

まとめ

巨勢派は、単なる画派ではなく、代々続く絵師一族として、日本の美術史に大きな足跡を残しました。宮廷絵師としての輝かしい歴史、興福寺大乗院との深い繋がり、そして土佐派への影響など、多様な側面を持つ巨勢派の研究は、日本絵画史の理解を深める上で非常に重要です。今後さらなる研究によって、その全貌が明らかになることが期待されます。

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