大和絵

大和絵：日本の美意識を映す絵画様式

大和絵は、日本絵画を代表する様式の一つであり、中国風の絵画である唐絵（からえ）と対比される、日本独自の絵画様式です。平安時代以降、日本の文化や美意識を反映しながら発展を続け、現代の日本画にも多大な影響を与えています。別名として「陸絵」「和絵」などが用いられ、「倭絵」「和画」と表記し「やまとえ」と読むこともあります。漢字表記の揺れを避けるため、ひらがな表記の「やまと絵」が一般的に用いられることが多いです。

大和絵の概念：時代による変化

「やまと絵」の定義は、時代によって大きく変化しています。平安時代においては、画題を指す概念でした。日本の故事、人物、事物、風景を主題とした絵画を指し、唐絵とは画題において対照的なものであり、絵画の様式や技法とは直接関係がありませんでした。当時、障子絵や屏風絵といった大画面の絵画に用いられる用語であり、絵巻や冊子絵は「紙絵」と呼ばれていました。後世の分類では絵巻物が多く大和絵として扱われますが、平安時代においては絵巻物が大和絵と分類されていたわけではありません。

14世紀以降は、絵画様式を示す概念へと変化しました。唐の様式を基盤に、北宋以降の中国絵画様式も部分的に取り入れ、独自に発展した伝統的な絵画様式を大和絵と呼ぶようになりました。この頃、唐絵（漢画）は宋以降の中国絵画の技法に基づく絵画、あるいは日本に輸入された中国絵画そのものを指す言葉になりました。やまと絵を専門とする土佐派などの流派が登場し、流派を指す意味でも用いられるようになりました。

大和絵の歴史：平安時代から江戸時代へ

平安時代

907年に唐が滅亡し、東アジア各地で中国文化からの離脱と文化の地方化が進みました。日本においても894年の遣唐使停止により、唐の影響が薄れ、国風文化が興隆しました。仮名の考案、和歌や物語文学の隆盛、和様書道の成立などがその象徴であり、大和絵の出現もこの時期と推測されます。藤原行成の日記「権記」の長保元年（999年）の記述が「やまと絵」の語の初出とされています。当時の宮廷貴族社会では、日本の物語文学を題材とした絵画が盛んに制作され、鑑賞されていました。

平安時代の世俗画は、主に邸宅内の調度品や間仕切りとして用いられる障子や屏風絵といった大画面の作品が中心でした。現存する作品は社寺関係の遺品に限られますが、屏風歌などから画題が推測できます。四季絵、月次絵（つきなみえ）、名所絵などが主な主題でした。巨勢派や飛鳥部常則などの絵師の名前が伝わっていますが、確実な遺品はなく、作風の詳細については不明な点が多く残されています。平安時代の絵巻物として有名な「源氏物語絵巻」などは12世紀の作品であり、11世紀以前の絵巻物の実態は不明です。

鎌倉時代

鎌倉時代も絵巻制作が盛んに行われました。戦乱や武士の生活、民間宗教を反映して、寺社縁起、高僧伝記、仏教説話などを題材とした絵巻物が数多く制作されました。合戦絵（「平治物語絵巻」「蒙古襲来絵巻」など）、社寺縁起絵、高僧伝絵などが有名です。「紫式部日記絵巻」や「男衾三郎絵巻」など、日記文学や武士の生活を描いた作品も現れました。

この時代には、写実的な人物描写が特徴的な肖像画も制作されました。軽快な線描と戯画的な要素を含む「似絵」と呼ばれる肖像画が流行し、「後鳥羽上皇像」「親鸞上人像」などが代表作です。肖像彫刻の隆盛と合わせて、鎌倉文化における個人と個性の重視がうかがえます。

室町時代

室町時代には、「浜松図」「日月山水図」など、優れた屏風絵が制作されました。土佐光信は「十王図」「槻峰寺縁起絵巻」などで知られ、永正3年（1506年）には「京中図」を描いています。これは洛中洛外図の文献上における初見となります。光信は公家、武家、寺社のために数多くの作品を制作し、大和絵の題材と技法の幅を広げました。絵巻、特に「小絵」と呼ばれる小型絵巻にも定評がありました。肖像画にも秀でており、「後円融天皇像」「伝足利義政像」などが有名です。

戦国・安土桃山時代

桃山文化において、障壁画が隆盛を極めました。天下人に結びついた狩野派が台頭する一方で、大和絵の名門であった土佐派は勢力を弱めていきました。土佐派は狩野派の台頭に抗することができず、宮廷絵所職の地位を失いました。土佐光吉、光則らが流派を継承しましたが、京都を離れて堺を拠点に活動しました。住吉如慶は土佐派から独立し、江戸幕府御用絵師の住吉派の祖となりました。

江戸時代

土佐光起は、父と共に寛永11年（1634年）に京都に移り、以降は京都を拠点に活動しました。承応3年（1654年）には絵所預職となり、土佐派中興の祖として、江戸時代を通じて朝廷の絵所預職を務めました。

大和絵の代表作

聖徳太子絵伝（東京国立博物館蔵）
平等院鳳凰堂壁扉画（平等院蔵）
源氏物語絵巻（徳川美術館、五島美術館蔵）
伴大納言絵巻（出光美術館蔵）
信貴山縁起絵巻（朝護孫子寺蔵）
鳥獣人物戯画（高山寺蔵）
扇面古写経（四天王寺、東京国立博物館など）

参考文献

本稿の作成にあたり、以下の文献を参照しました。

田中一松『やまと絵序説』
家永三郎『上代倭絵全史』『上代倭絵年表』
秋山光和『平安時代世俗画の研究』
宮島新一『宮廷画壇史の研究』
その他多数の文献、図録

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