巴

巴（ともえ）とは

巴は、コンマや勾玉のような形をした日本の伝統的な文様の一つであり、巴を使った紋の総称を指します。巴紋とも呼ばれ、家紋、神紋、寺紋などに広く用いられ、太鼓や軒丸瓦にも描かれています。

起源と解釈

「ともえ」の語源には諸説あります。

鞆絵説: 弓を射る際に使用する鞆（とも）を図案化したという説。
勾玉説: 勾玉を図案化したという説。

これらの説に加え、水が渦を巻く様子を図案化したという解釈も一般的です。中国では、人が腹ばいになる姿を表す象形文字「巴」が、形の類似からこの文様に当てられました。水に関連する模様であることから、火災除けとして平安時代末期の建物に葺かれた軒丸瓦に巴紋が施されました。

神紋としての巴紋

特に武神である八幡神の神紋として巴紋（特に三つ巴）が用いられるようになり、その後、他の神社でも神紋として採用されるようになりました。

図案の種類

巴紋には、単独の巴の他、数や形状、向きによって様々な種類が存在します。

一つ巴: 一つの巴を配した紋。
二つ巴: 二つの巴を円形に配した紋。
三つ巴: 三つの巴を円形に配した紋。
九曜巴: 「九曜」の配置に三つ巴を9つ並べた紋（板倉巴とも呼ばれる）。
抜け巴: 三つ巴の内側輪郭のみを残した紋。
尾長三つ巴: 尾の長い三つ巴。

「三つ巴」は、3つの勢力が拮抗し、鼎立している様子を表す言葉としても用いられます。また、藤紋の「一つ藤巴」のように、他の紋章に巴の要素を組み込んだものも存在します。

巴紋の左右呼称論争

家紋における巴紋の左右呼称は、長年議論の的となっています。

巴紋には、細い部分（尾）から円い部分（頭）への進行方向が時計回りのものと反時計回りのものがあります。これらは区別されることが多いものの、どちらが右、左を指すかは時代や文献によって一定していません。

絵師の解釈

家紋を描く絵師は、尾の流れる方向に従って名称をつけます。親指を外に出して拳を握った時、左巴は左手の親指が指す方向、右巴は右手の親指が指す方向を指します。この解釈が歴史的に多く見られます。

沼田頼輔の説

沼田頼輔は、雅楽で使われる大太鼓に描かれた巴紋が由来であると唱えました。四天王寺の大太鼓の配置を参考に、『四天王寺聖霊絵巻』に描かれた大太鼓の巴紋を引用し、左に置かれた大太鼓を左巴、右に置かれた大太鼓を右巴と解釈しました。また、『江談抄』や法隆寺所蔵の大太鼓の銘文も根拠としています。

高澤等の反論

日本家紋研究会の高澤等は、沼田説に対し、四天王寺の大太鼓の図は下座からの視点であり、本来向きが逆であると反論しました。また、大太鼓の配置は巴の回転方向を示すものではないと指摘。さらに、大太鼓に描かれた巴紋の回転方向が一定でないことを挙げ、当時、三つ巴は回転方向に関わらず左巴、二つ巴は右巴と呼んでいたと推論しました。

高澤等は、巴紋は雷を表し、尾が流れる方向が名称の根拠であると主張しています。

使用例

歴史的利用:
『愚管抄』には、西園寺実季が巴紋を使用した記録があります。
『見聞諸家紋』には、曾我氏、赤松氏、長尾氏、宇都宮氏などが記載されています。
江戸時代には、丹波九鬼氏、筑後有馬氏、備中板倉氏など多くの武家が使用しました。
現代の使用例:
西園寺家と中邑家（公家）が現在も使用しています。
新撰組副長の土方歳三が「左三つ巴」を使用しました。
琉球王国の尚氏王統が「左三つ巴」を使用しました。
陸上自衛隊中央即応連隊の部隊章に三つ巴が使用されています。
OBS Studioのアイコンに三つ巴が使用されています。

類似した意匠

中国、韓国、モンゴル、チベットには、二つ巴に似た「太極（タイジー）」と呼ばれる模様がありますが、これは道教の陰陽思想を表すものです。また、ヨーロッパには三つ巴に似た「トリスケル」という文様があります。

まとめ

巴紋は、日本の歴史と文化に深く根ざした伝統的な文様です。その起源や意味、左右の解釈には様々な説がありますが、多くの人々に親しまれ、現代でも様々な場面で使用されています。

参考資料

無料家紋事典「巴・ともえ」 - ウェイバックマシン（2013年1月22日アーカイブ分） （日本語） - （各種の巴紋を掲載）

関連項目

家紋
勾玉
オタマジャクシ
家紋の一覧
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