巴 (能)

能楽作品『巴』について

『巴』は、木曾義仲の愛妾・巴御前を主人公にした能楽作品で、その背後には豊かな物語が展開されています。この作品は、女性が主役となる稀有な修羅能であり、能楽の中でも特異な要素を持つものとして位置づけられています。作品の作者については観世小次郎信光とする古書もあるものの、正確な出自は不明です。

作品の構成

この能楽は、主に三つの部分から構成されており、それぞれの段落において異なる人物が重要な役割を果たしています。

前段

前段では、木曾の僧が琵琶湖の近くで不思議な里の女と出会うところから始まります。この女は、木曾義仲の愛妾であり、家臣である巴御前の霊であることが徐々に明らかになります。彼女は神前で涙を流し、その理由を僧に語る。僧に自らの名を尋ねさせ、その名を村人に問うよう促して消えてしまうという神秘的な描写が印象的です。

間狂言

次に、間狂言では、木曾の僧が訪れた際に地元の住人と交流し、木曾義仲の物語や巴の活躍について語る場面が展開されます。男は木曾義仲が立ち上げた旗揚げ戦や、巴との最後の別れのエピソードを語り、彼女の道を断たれてしまった無念を伝えます。巴は義仲の命令に従い、故郷に帰るよう言われ、最後まで彼に従うことができなかった悲しみを抱えることになります。

後段

後段では、巴の霊が現れ、僧の経によって成仏を目指す様子が描かれます。女武者としての義務を果たした巴は、義仲との思い出を語りつつ、その運命に身を任せる姿が印象的です。激しい舞を通じて巴は自らの戦いを示し、最終的には義仲の遺体が依然として横たわる松の根に自らの心情を語ります。彼女は、義仲のため思いを馳せ、琵琶湖のほとりにおいて戦いの末の無念を語り、能の幕が下ります。

平家物語との関連

本作は平家物語の「木曾の最期」に基づいていますが、内容には異なる点が見受けられます。平家物語では義仲は巴を置いて自ら命を絶つ一方で、この作品では巴を生かすために小袖を故郷に届けさせているのが特徴的です。また、義仲が自害する際も、平家物語では射られて命を落とす一方、本作では自らの意志で命を絶っています。

その他の作品

『巴』以外にも木曾の最期をテーマとした能楽の作品が存在しますが、特に『兼平』などが知られています。その中で、巴が義仲との絆を思い出す場面や表現が、能楽の異なる形式の中でどのように展開されるのかを考えるのも一興です。彼女は逃げることを決意し、その背後に秘められた思いを語ることで、修羅能の深いテーマ性を浮き彫りにしています。

参考文献

• - 『謡曲大観第4巻』佐成謙太郎
• - 能・狂言事典 西野春雄 羽田昶
• - 能ドットコム：巴の解説および現代語訳

このように『巴』は、深い内容と美しい舞、情感豊かな語りが融合した作品であり、能楽の中でも特に重要な位置を占めています。

もう一度検索