市川左團次 (初代)

初代市川左團次について

初代市川左團次（1842年11月30日 - 1904年8月7日）は、近代歌舞伎を代表する役者の一人であり、大阪に生まれました。彼の屋号は髙島屋で、定紋には「三升に左」、替紋に「松川菱に鬼蔦」を持つなど、歌舞伎役者としての強い個性を示していました。彼の本名は高橋榮三で、俳名は松蔦や莚升としても知られています。

来歴と初舞台

生まれ育った大坂道頓堀で、父は歌舞伎役者の結髪師・中村清吉でした。7歳の時に市川辰蔵の名で初舞台を踏み、その後は七代目市川團十郎の門下に入ります。ここで初代市川小米として活動し、さらに初代市川升若に名を改めました。

この時期、彼の才能が周囲に認められ、1864年には広く知られる四代目市川小團次の養子となります。その経緯は、舞台での姉妹交流がきっかけでしたが、結果的に市川升若の美貌に目をかけた江戸の関係者が彼を養子に迎えることになるのです。

江戸への移住と劣化

江戸に下った後、市川左團次と改名し、1865年に初めて江戸の中村座で公演を行います。しかし、上方訛りが露呈すると、客席では期待外れの野次が飛ぶなど、厳しい反応に直面します。これ以降、彼の舞台活動は不調に陥り、小團次の死後は一時舞台から遠ざかります。ここで彼を救ったのが、二代目河竹新七でした。新七は左團次に新たな稽古を施し、彼を再度舞台に戻します。

輝かしい成果

明治3年3月には、守田座での『樟紀流花見幕張』にて、丸橋忠弥の役で大当たりを記録。特に「江戸城堀端の場」は観客に大いに受けました。この後も彼は舞台での存在感を増し、新富座に移ってからは主に立役を演じ、明快な口跡や立ち回りで多くのファンを魅了しました。

彼の代表作には『慶安太平記』の丸橋忠弥や『勧進帳』の富樫など、数々の名演が含まれています。九代目市川團十郎や五代目尾上菊五郎と共に「團菊左」として並び称され、明治20年には天覧歌舞伎にも出演しました。

劇場経営と私生活

明治23年には新富座の座頭となり、興行の中心的な責任者として活動しますが、金銭的な問題や周囲との関係に悩まされます。最終的には明治24年に勘彌と絶縁。しかし、明治26年には新たに明治座を築き、近代的な劇場経営を行いました。彼は新作物の興行を推進し、歴史に残る『悪源太』の初演に関与することで新歌舞伎の潮流を切り開くことに成功しました。

晩年と影響

私生活では、彼は温厚な人柄で知られ、多くの人から尊敬を集めていました。最後の舞台は明治37年5月の『敵国降伏』であり、その後同年8月に逝去しました。彼の死は、江戸歌舞伎にとっても一つの終焉を意味する出来事でした。

後に二代目市川左團次として子供や、さまざまな親族たちが演劇界で活躍していくことになります。彼の影響は後の歌舞伎役者たちに大きく残り、今日に至るまでその名は語り継がれています。

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