市村家橘

市村家橘（いちむら かきつ）は、歌舞伎役者の名跡の一つであり、屋号は橘屋です。定紋は根割り橘、替紋は渦巻を使用します。「家橘」の名は、九代目市村羽左衛門の俳名に由来しています。ただし、初代から三代目の家橘は、俳名として「家橘」を使用していましたが、実際に名跡を襲名することはありませんでした。

初めて「家橘」を名跡として使用したのは、十三代目市村羽左衛門です。彼は、役者としての活動を希望していたため、座元としては羽左衛門を名乗り、役者名としては四代目市村家橘を併用しました。同様に、実弟である十四代目市村羽左衛門も、座元を務める間は役者名として五代目市村家橘を使用しています。

五代目市村家橘は、明治5年に市村座の経営権を手放したことを機に、市村座ゆかりの「市村」姓を「坂東」に改めました。これは、五代目夫妻が五代目坂東彦三郎の未亡人の養子になったためです。しかし、養子である録太郎は坂東家の養子とならなかったため、五代目亡き後に再び六代目市村家橘を名乗っています。

当代の市村家橘は十七代目を称していますが、これは七代目（実際には十五代目）に当たる十六代目市村羽左衛門が、「新刻役目綱目」にある九代目羽左衛門を誤って九代目市村家橘としている記述と、十五代目の後継者であることを意識し、昭和3年5月の演芸画報への寄稿を機に代数を飛ばして十五代目を名乗ったためです。

以下に、市村家橘の歴代をまとめます。

初代 市村家橘：八代目市村羽左衛門の子。1724–1782年。
市村満蔵 → 初代市村亀蔵 → 九代目市村羽左衛門（俳名：初代市村家橘）
二代目 市村家橘：初代の子。1748–1799年。
市村七十郎 → 二代目市村亀蔵 → 十代目市村羽左衛門 （俳名：二代目市村家橘）
三代目 市村家橘：二代目の養子である十一代目市村羽左衛門の次男。1812–1851年。
市村豊松 → 市村亀之助 → 十二代目市村羽左衛門 → 五代目市村竹之丞 （俳名：三代目市村家橘）
四代目 市村家橘：三代目の長男。1844–1903年。母は三代目尾上菊五郎の次女。
二代目市村九郎右衛門（＝初代尾上九朗右衛門）→ 十三代目市村羽左衛門 (役者名として四代目市村家橘を併用) → 五代目尾上菊五郎
五代目 市村家橘：三代目の次男で四代目の弟。1847–1893年。
三代目市村竹松 → 十四代目市村羽左衛門 (役者名として五代目市村家橘を併用) → 初代坂東家橘
六代目 市村家橘：五代目の養子。1874–1945年。実父は明治政府の外交顧問チャールズ・ルジャンドル、母は旧福井藩藩主松平慶永の庶子池田絲。
坂東竹松 → 二代目坂東家橘 → 六代目市村家橘 → 十五代目市村羽左衛門
七代目 市村家橘（自称十五代目）：六代目の養子。1905–1952年。
四代目市村竹松 → 七代目市村家橘（昭和3年から十五代目市村家橘を自称）→ 十六代目市村羽左衛門
十六代目 市村家橘：十五代目の養子。1918–2010年。実父は十二代目片岡仁左衛門。
片岡義直 → 二代目市村又三郎 → 十六代目市村家橘 → 二代目市村吉五郎
十七代目 市村家橘：十六代目の長男。1949– 。当代。
市村寿 → 十七代目市村家橘

このように、市村家橘の名跡は、市村羽左衛門と密接な関係を持ちながらも、独自の歴史を歩んできたことがわかります。また、代数の数え方にも特殊な事情があり、複雑な系譜を形成しています。

関連事項として、坂東家橘も参照してください。

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