市村陽典

市村陽典（いちむら ようすけ）は、1951年1月19日に茨城県土浦市で生まれた日本の法律家である。裁判官として長年奉職した後、退官後は弁護士としても活動している。そのキャリアは、行政法分野における深い専門性と、様々な司法の要職を歴任した経験に裏打ちされている。

茨城県立土浦第一高等学校を経て、一橋大学法学部で法律を学んだ。大学在学中に旧司法試験に合格し、卒業後、司法修習（28期）を修了した。大学時代には一橋大学基督教青年会の一橋寮で寮生活を送り、後の政治家である鈴木望氏や牧師・大学学長となった阿久戸光晴氏らとの交流を持った。

1976年、東京地方裁判所の判事補として裁判官のキャリアをスタートさせた市村氏は、以後、東京、松江、高松、金沢など各地の地方裁判所や家庭裁判所で経験を積んだ。特に、最高裁判所事務総局行政局付として勤務した期間は、行政法に関する専門知識を深める重要な機会となった。この専門性を活かし、内閣司法制度改革推進本部行政訴訟検討会の委員として、行政事件訴訟法の改正作業にも深く関与した。

裁判官としてのキャリア後半では、地裁所長や高裁の要職を歴任した。金沢地方裁判所・家庭裁判所の部総括判事を務めた後、再び東京地方裁判所の部総括判事となり、大規模な訴訟にも対応した。その後、水戸地方裁判所長、東京高等裁判所部総括判事、横浜地方裁判所長などを経て、2015年4月には仙台高等裁判所長官に就任し、東北地方の司法の要を担った。

裁判官として携わった事件の中には、社会的な注目を集めたものも少なくない。例えば、在外日本人選挙権訴訟の第一審では、裁判長として訴えを却下または棄却する判断を下した。また、国立マンション訴訟の行政訴訟部分の第一審も担当し、行政の行為に対する司法審査のあり方を示す判断を行った。

2016年1月19日に裁判官を定年退官。しかし、その豊富な経験と行政法分野の知見は、退官後も活かされることとなった。同年4月、行政不服審査法の改正により新設された行政不服審査会の初代会長に就任。国民の行政に対する不服申立て手続きを公正・迅速に行うための第三者機関のトップとして、その設立と初期の運営に尽力した。会長退任後も、2019年4月まで行政不服審査会参与として制度に関わり続けた。

公的な役割を終えた後も、活動の幅は広がった。2019年6月には株式会社ロッテの取締役に就任し、企業のガバナンス強化に貢献。同年12月には弁護士登録（第一東京弁護士会）を行い、あさひ法律事務所のオブカウンセルとして法曹実務に復帰した。さらに、2020年3月からは藤田観光株式会社の補欠監査役も務めるなど、多角的な活動を行っている。

専門分野に関する著作活動も積極的に行っている。行政法、特に改正行政事件訴訟法に関する解説論文や、園部逸夫氏、芝池義一氏、南博方氏、高橋滋氏、山本隆司氏といった著名な法学者・実務家との共編著として、『改正行政事件訴訟法の理論と実務』、『条解行政事件訴訟法』などを刊行している。また、会社法に関する体系書である『会社法大系』の共編者の一人でもある。

長年にわたる法曹界及び公的機関における貢献が認められ、2021年には瑞宝重光章を受章した。市村陽典氏は、裁判官、行政不服審査会会長、そして弁護士として、日本の法制度の発展と社会の公正に深く関わってきた人物と言える。

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