市神

市神（いちがみ）

市神とは、市場を司る神であり、市場の守護神として古くから信仰されてきました。商業神や地主神の一形態であり、市場の安全と公正な取引を祈願するために祀られます。市場や市組の境界、市場集落と近隣集落との境界などに祀られることがあり、市場が開かれる土地の区画を管理する神としての性格を持っています。また、市神は「市の神」や「市場神」とも呼ばれます。

概要

市神は、交易の場である市場の安全と繁栄を祈る神として、祭祀が行われてきました。市場における公正な取引を支え、商売の成功を願う人々の心の拠り所となってきたのです。市神の祭りは、正月の初市に行われることが多いですが、酉の市や暮の市など、特定の時期に行われることもあります。これらの祭りは、市場の活性化と地域の繁栄を願う重要な行事です。

市場の開設場所は、古くからの街道沿いが多かったため、市神は路傍に祀られることが一般的でした。しかし、近代以降、交通事情の変化に伴い、市場が道路上から近隣の神社境内に移されるケースが増え、市神も一緒に境内へと移されるようになりました。これにより、市神は地域社会における信仰の中心としての役割も担うようになります。

神体と祭神

市神の神体は、自然石をそのまま用いたものが多いことが特徴です。具体的には、円形の自然石、球形の玉石、卵形、砲弾形の石などが用いられます。また、木造の六角柱や陰陽一対のものが用いられることもあります。これらの神体は、地域や信仰によって様々な形態をとります。

市神として祀られる祭神は、市の名を持つ神である神大市比売（かみおおいちひめ）や市杵島姫（いちきしまひめ）が代表的です。また、恵比寿（蛭子神・事代主神）、大黒（大国主神・大物主神）、稲荷神など、福徳をもたらす神々も多く祀られています。さらに、須佐之男命（牛頭天王）や迦具土神（秋葉権現）など、地域によっては独特の神々が祀られていることもあります。これらの祭神は、人々の生活や信仰と深く結びついており、市神信仰の多様性を物語っています。

まとめ

市神は、単なる市場の守護神というだけでなく、地域社会の文化や歴史を反映した存在です。市場の成立と発展とともに、人々の生活と深く結びついてきました。市神信仰は、現代においても、地域の祭りや伝統行事の中で大切に受け継がれています。その歴史や文化を知ることは、私たち自身のルーツを辿る旅にもつながるでしょう。

参考文献

北見俊夫「市と市神」『民間伝承 第15巻 第1号』1951年（昭和26年）日本民俗学会
中島義一『市場集落』1964年（昭和39年）古今書院
北見俊夫『市と行商の民俗』1977年（昭和52年）ほるぷ、原発行 岩崎美術社（民俗民芸双書）

関連項目

道祖神
* 岐の神

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