布引電気鉄道

布引電気鉄道：短命に終わった地方鉄道の物語

布引電気鉄道は、1920年代に長野県に存在した鉄道会社です。小諸町（現小諸市）から川辺村（現佐久市）を経て北御牧村（現東御市）に至る路線を運営していましたが、開業からわずか8年で廃止となりました。その背景には、昭和初期の不況やバスの台頭、そして資金繰りの失敗がありました。

設立と開業

1920年、信越本線小諸駅から望月方面への延伸を目指し、布引自働鉄道として設立されました。当初はガス力を動力とする計画でしたが、経費の問題から蒸気動力に変更され、会社名も布引鉄道となりました。しかし、佐久諏訪電気鉄道との線路共用の条件が課せられたことや、地形上の制約から電気動力への変更を余儀なくされました。これにより、1923年には社名も布引電気鉄道に変更されています。

資金調達は難航しましたが、沿線の島川原に東信電気第二発電所が建設されることになり、その資材輸送を目的として、まずは小諸から島川原までの区間が開業することになりました。1926年12月1日、ついに布引電気鉄道は営業を開始しました。

短い繁栄と経営危機

開業当初は、沿線住民の利用は少なく、主に布引観音への参拝客が利用していました。しかし、東信電気第二発電所の建設が本格化すると、貨物輸送が盛んになり、一時的に経営は安定しました。しかし、発電所の建設が完了すると貨物輸送は激減し、経営は再び悪化しました。

加えて、株金の払い込み遅延や借入金の増加などにより、経営は深刻な状態に陥りました。当初の目的地であった望月への延伸も資金不足で実現せず、1931年には島川原から先の免許が取り消されてしまいます。その後、一時的に運行を再開するも、電気料金の滞納により1934年6月18日についに運行を休止。そのまま再開することなく、1936年に廃止となりました。

路線と運行

布引電気鉄道の路線は、小諸駅から島川原駅までの7.42kmで、全線単線、直流600Vで電化されていました。途中駅は、花川駅、押出駅、布引駅、布下駅がありました。1日の運行本数は18往復で、全線所要時間は27分でした。

車両

開業にあたっては、筑摩電気鉄道から譲り受けた電気車両が使用されました。主にデハ1-3形とデワ2形という木造の2軸電車が活躍しました。

佐久諏訪電気鉄道

布引電気鉄道とほぼ同時期に、近隣地域で佐久諏訪電気鉄道という鉄道会社も計画されていました。こちらは、信越本線田中駅と中央本線茅野駅を結ぶ計画でしたが、資金難や用地買収の難航により、一部区間が建設されたのみで、完成することなく破産しました。布引電気鉄道と線路を共用する計画でしたが、実現には至りませんでした。佐久諏訪電気鉄道の未完成の橋脚や築堤の一部は、現在でも各地に残されています。

廃線跡

布引電気鉄道の廃線跡は、道路や農道として利用されています。千曲川の橋脚や押出駅の遺構の一部は、現在でも残っており、当時の面影を伝えています。

まとめ

布引電気鉄道は、地域振興の期待を背負って開業したものの、経営難により短期間で廃止となった地方鉄道の典型例と言えるでしょう。その短い歴史は、地方鉄道の経営の難しさを示すとともに、人々の記憶の中に今も残っています。


参考文献

今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳 6 北信越』新潮社、2008年
谷口良忠「失われた鉄道・軌道を訪ねて (53) 布引電気鉄道」『鉄道ピクトリアル』第433号、電気車研究会、1984年
* 山田俊明「鉄道史研究第3回 挫折した地方小鉄道」『鉄道ジャーナル』第196号、鉄道ジャーナル社、1983年

もう一度検索