帆足万里

帆足万里：江戸時代後期の多才な儒学者、経世家、そして改革者

帆足万里（ほあしばんり、1778年～1852年）は、豊後国日出藩出身の江戸時代後期の儒学者であり、経世家、そして日出藩家老として知られる人物です。三浦梅園、広瀬淡窓とともに「豊後三賢」の一人と称えられています。

生涯

父は日出藩家老の帆足通文。万里は幼少期から学び、脇蘭室、中井竹山、亀井南冥、皆川淇園といった著名な学者に師事しました。30歳頃には日出藩の藩校教授となり、藩主木下俊敦の信頼を得て、藩校「稽古堂」そして後には「致道館」での教育に携わりました。

天保3年（1832年）、万里は藩主の要請を受け、日出藩家老に就任。大胆な財政改革に着手しました。不正を摘発し、倹約を推進することで藩財政の立て直しに大きく貢献しました。しかし、その厳格な改革姿勢は藩内の一部勢力と対立を生じさせ、天保6年（1835年）に家老職を辞任します。

家老職を辞した後も、万里は教育活動を続けました。中ノ町に家塾を開設した後、天保13年（1842年）には私塾「西崦精舎（せいえんせいしゃ）」を設立。さらに、弘化4年（1847年）には京都へ赴き、朝廷に教育による国力増強を訴えました。その後、日出に戻り、西崦精舎での教育を続けましたが、嘉永5年（1852年）、75歳で生涯を閉じました。

学問と著作

万里は経学、史学、経世の学に精通する一方、蘭学にも造詣が深く、天文、物理、博物学、医学、地理など幅広い分野を学びました。特に注目すべきは、自然科学を体系的に解説した『窮理通（きゅうりつう）』です。これは日本の自然科学史における画期的な著作であり、明治時代にオランダの学者グイド・フルベッキもその内容に驚嘆したと伝えられています。

他にも、儒教の四書五経への注釈書である『四書標註』や『五経標註』、社会経済・国防改革論を展開した『東潜夫論』など、多くの著作を残しました。彼の文章は古文を重んじ、力強く簡潔な表現で知られています。

政治と軍事

日出藩家老として財政改革に手腕を発揮した万里ですが、その影響は政治・軍事にも及んでいました。家老職を退いた後も、彼の弟子たちが藩の要職に就き、藩政に貢献しました。また、『東潜夫論』では、西欧列強への備えとして、洋式軍艦の建造や砲術の充実を提言。実際に、反射炉による大砲鋳造を推進するなど、軍事面でも貢献しています。

門弟と影響

帆足万里には多くの優秀な弟子がいました。特に「帆足門下の十哲」と呼ばれる弟子たちは、各々の地域で活躍し、万里の思想や学問を伝承しました。その中には、福澤諭吉の父である福澤百助も含まれています。

まとめ

帆足万里は、儒学者としての深い学識、経世家としての優れた政策立案能力、そして教育者としての熱意を併せ持つ、稀有な人物でした。彼の生涯と業績は、単なる地方藩士の枠を超え、日本の近代化に貢献した先駆者として、高く評価されるべきでしょう。彼の著作は、現代においても、歴史的、学術的に貴重な資料として、私たちに多くの示唆を与えてくれます。

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