中井竹山

中井竹山：懐徳堂全盛期を支えた江戸時代中期の儒学者

中井竹山（なかい ちくざん、1730年-1804年）は、江戸時代中期を代表する儒学者です。大坂の著名な学問所、懐徳堂の第四代学主として、その全盛期を担いました。

生い立ちと師

竹山は、懐徳堂第二代学主である中井甃庵の長男として、大坂で誕生しました。弟には、同じく著名な儒学者となる中井履軒がいます。幼少期より、父・甃庵から厳しくも愛情深い教育を受けました。10歳頃から、兄弟で懐徳堂の助講を務めた五井蘭洲に師事し、経学、漢学のみならず、文章、詩歌、神道、仏教、史学、経済、兵学など幅広い知識を習得しました。蘭洲の教えは、後の竹山兄弟の学問に多大な影響を与え、「懐徳堂学派」と呼ばれる独自の学風を形成する基礎となりました。

懐徳堂の経営と官学化への夢

27歳の時、竹山は京都の革島氏出身の女性と結婚。29歳で父・甃庵が没すると、懐徳堂の預人となり、実質的な経営者として三宅春楼を支えました。天明2年（1782年）、春楼の没後、53歳で第四代学主に就任します。

竹山は、懐徳堂を大坂における官立学問所とすることを強く願っていました。その実現のため、様々な努力を重ね、諸大名や旗本、学者らとの広範なネットワークを築き、懐徳堂の評判を高めました。

天明8年（1788年）、老中となった松平定信が来阪した際、竹山は定信と4時間にも及ぶ会見を行い、政治、経済、学問などについて意見交換しました。この会見を機に、竹山は『草茅危言』を著し、定信に献上しました。この後、竹山の名声は全国に広がり、懐徳堂には多くの門人が集まるようになりました。大坂城代・堀田正順とも緊密な関係を築き、城内で講義を行うまでになりました。懐徳堂は、竹山の活躍により西日本における学問の中心地として隆盛を極めました。

挫折と晩年

寛政4年（1792年）、大坂大火により懐徳堂は全焼。竹山は門人たちと江戸に赴き、幕府に官学化を願い出ますが、願いは叶いませんでした。再建は門人らの寄付によってなされましたが、この出来事を境に竹山は高齢を感じ、68歳で隠居し、「渫翁」と号しました。

隠居後も、『逸史』を著し幕府に献上、褒美を賜りました。昌平坂学問所からの招聘も辞退するなど、晩年も多くの誘いを受けながらも、懐徳堂を離れることはありませんでした。享和3年（1803年）、期待の四男・蕉園を亡くす悲しみを乗り越えることができず、翌年、75歳で亡くなりました。

学問と交遊関係

竹山は朱子学を信奉し、『非徴』などで徂徠学を批判しましたが、懐徳堂では陽明学や古義学の講義も行われており、学問への姿勢は多様でした。頼春水、尾藤二洲、木村蒹葭堂、上田秋成など、多くの著名な学者と交流を持ちました。

主要な著作

『草茅危言』
『非徴』
『逸史』
『易断』
『詩律兆』
『社倉私議』
* 『蒙養篇』

中井竹山は、懐徳堂の全盛期を築き、西日本の学問発展に多大な貢献をした、江戸時代を代表する儒学者でした。彼の生涯は、学問への情熱と、時代の変動の中で揺れ動く理想の姿を映し出しています。

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