希土戦争 (1897年)

希土戦争：クレタ島をめぐる覇権争い

1897年、ギリシャ王国とオスマン帝国の間で勃発した希土戦争は、クレタ島の帰属問題を巡る長年の対立がついに軍事衝突へと発展した出来事でした。この戦争は、19世紀におけるバルカン半島の複雑な政治情勢、民族主義の高まり、そして列強の利害が複雑に絡み合った結果として発生しました。

戦争の背景：クレタ島の地位

19世紀前半、ギリシャ独立戦争を経て建国されたギリシャ王国は、依然としてオスマン帝国の支配下にあるクレタ島への強い関心を持ち続けていました。クレタ島は地理的にギリシャ本土に近く、住民の大半はギリシャ系住民であったことから、ギリシャ併合を望む声が強まりました。オスマン帝国は、クレタ島におけるギリシャ人の自治運動や独立運動を度々鎮圧しようと試みましたが、これらの運動は根強く続き、1896年末には大規模な反乱が勃発します。

ギリシャの介入と列強の反応

ギリシャ政府は、汎ギリシャ主義（メガリ・イデア）という、ギリシャ系住民の居住地全てをギリシャに統合するという国家主義的イデオロギーの下、クレタ島への軍事介入を決断します。ギリシャ軍はクレタ島に上陸し、反乱軍を支援しました。当時、オスマン帝国は財政難により軍備が弱体化しており、特に海軍力はギリシャに劣っていました。そのため、ギリシャは容易に制海権を掌握しました。しかし、バルカン半島での混乱を避けたい西欧列強諸国は、ギリシャの行動を牽制し、艦隊を派遣してクレタ島周辺を封鎖しました。この圧力により、ギリシャ軍はクレタ島から撤退せざるを得なくなります。

マケドニア・イピロス戦線

クレタ島からの撤退後、ギリシャは新たな目標として、マケドニア地方とイピロス地方への併合を目指しました。ギリシャはこれら地域に民兵を送り込み、現地のギリシャ系住民の蜂起を支援しました。4月4日、ギリシャ軍はオスマン帝国領国境を越えて侵攻を開始します。エドヘム・パシャ率いるオスマン軍と、ギリシャ皇太子コンスタンティノス率いるギリシャ軍の間に、激しい戦闘が勃発しました。陸上戦においては、オスマン帝国軍はギリシャ軍より兵力において優勢にありました。そのため、戦闘はオスマン帝国軍優勢に進展し、ドメコス周辺での戦闘ではオスマン帝国軍が決定的な勝利を収めました。これにより、ギリシャ軍は総撤退に追い込まれます。イピロス戦線でも、オスマン帝国軍はギリシャ軍を撃退しました。

和平条約とその後

列強諸国の仲介により、停戦交渉が始まり、12月4日にイスタンブールで和平条約が締結されました。この条約で、ギリシャはオスマン帝国に多額の賠償金を支払うこととなり、テッサリア地方の一部をオスマン帝国に割譲しました。クレタ島は、列強諸国の国際保護下に置かれ、オスマン帝国主権下の自治国となりました。翌1898年には、ギリシャ国王ゲオルギオス1世の次男ゲオルギオスがクレタ島の総督として派遣されました。その後、バルカン戦争の結果、クレタ島は1913年に正式にギリシャに併合されることになります。希土戦争は、オスマン帝国の衰退とバルカン半島の民族紛争が激化する転換点となりました。また、列強諸国のバルカン半島への介入の様相も示す歴史的な出来事と言えます。

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