メガリ・イデア

メガリ・イデア（偉大なる思想）

メガリ・イデア（Μεγάλη Ιδέα）は、ギリシャ民族主義の象徴的な概念であり、「偉大なる思想」を意味します。これは、かつてのビザンツ帝国の領土を回復し、ギリシャ民族が居住する地域を統合するという、壮大な国家目標を掲げた思想です。

概要

19世紀、ギリシャ王国が成立した頃、その領土は現在のギリシャよりもはるかに小さく、多くのギリシャ人がオスマン帝国の支配下にありました。メガリ・イデアは、これらのギリシャ人居住地域、特にコンスタンティノープル（現在のイスタンブール）、小アジア沿岸部、ポントス地方などをギリシャの領土に統合することを目指しました。

この思想の提唱者の一人であるイオアニス・コレッティスは、コンスタンティノープルを首都、アテネを経済の中心とする構想を描きました。また、ギリシャ正教会の旗のもと、全てのギリシャ人を「大ギリシャ国」の版図に統合することを提唱しました。

歴史

メガリ・イデアは、ギリシャ独立後から20世紀初頭にかけて、ギリシャの政治、社会、文化に大きな影響を与えました。ギリシャは、列強間の対立を利用しながら、イオニア諸島、テッサリア、イピロス南部などを領土に加えました。しかし、クレタ島やマケドニアなどの地域では、紛争が絶えませんでした。

第一次世界大戦後、ギリシャはメガリ・イデアの実現に向けて、スミルナ（現在のイズミル）とその周辺地域を占領しました。しかし、トルコ革命を経て、ムスタファ・ケマル率いるトルコ軍の反撃を受け、ギリシャ軍は敗退。スミルナは焼き払われ、多くのギリシャ人が虐殺されました。この事件は「スミルナの大火」として知られ、小アジアにおけるギリシャ人の歴史に終止符を打ちました。

1923年、ギリシャとトルコの間で住民交換が行われ、多くのギリシャ人がトルコからギリシャへ強制移住させられました。これにより、メガリ・イデアは事実上、終焉を迎えました。

キプロスとの関係

キプロスもメガリ・イデアの対象となりました。ギリシャとの併合を望む「エノシス」と呼ばれる概念が生まれ、キプロスのキリスト教徒の間で広まりました。しかし、1974年のトルコ軍によるキプロス侵攻により、キプロスは南北に分断され、現在に至っています。

現代への影響

今日、メガリ・イデアは、ギリシャのナショナリズムや一部の政治勢力に影響を与え続けています。トルコの行動をギリシャ人虐殺と批判する動きや、領土回復を主張する極右政党も存在します。また、エーゲ海のイミア島を巡るギリシャとトルコの対立や、キプロス問題は、メガリ・イデアの遺産とも言えるでしょう。

メガリ・イデアは、ギリシャの歴史とアイデンティティを理解する上で重要な概念です。その実現は、多くの犠牲を伴いましたが、ギリシャ民族の統一と独立への стремление（願望）を象徴するものとして、今もなお記憶されています。

参考文献

リチャード・クロッグ著・高久暁訳『ギリシャの歴史』創土社、2004年。ISBN 4-789-30021-8。
桜井万里子著『ギリシア史』山川出版社、2005年。ISBN 4-634-41470-8。

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