常陽新聞

常陽新聞

茨城県内で発行されていた地方新聞、『常陽新聞』は、約70年にわたる歴史の中で、二つの異なる運営主体によって刊行されました。初代は土浦市に、二代目はつくば市に本社を置き、地域に根差した報道を続けてきましたが、それぞれが経営難に直面し、最終的に2017年にその歴史に幕を下ろしました。この記事では、『常陽新聞』の歩みと、その系譜を受け継ぐニュースサイト、そして関連する地域情報誌についても詳述します。

初代 常陽新聞（土浦）

1948年11月1日、『豆日刊土浦』として産声を上げたのが、初代『常陽新聞』の始まりです。1953年6月1日に現在の題号に改称されたこの新聞は、土浦市に本社を構え、主に茨城県南部を基盤としつつ、県内全域を取材・配布エリアとするブランケット判の朝刊一般紙として発行されました。日本新聞協会や全国郷土紙連合に加盟し、地域における有力な情報源としての地位を築きました。2000年代初頭には公称約8万部を発行し、その影響力は小さくありませんでした。

しかし、初代『常陽新聞』は度重なる経営危機に直面しました。1960年代半ばには実発行部数1万部を超える規模でしたが、読売新聞や朝日新聞といった全国紙、そして県紙である茨城新聞との厳しい競争に晒されていました。さらに、1985年には関連会社の経営破綻が追い打ちとなり、同年6月には事実上の倒産状態に陥り、会社整理を申請しました。事業継続を図りながら再建を目指しましたが、2003年には約7億円の累積赤字を抱え、経営は行き詰まります。この事態を受け、新たな会社「株式会社常陽新聞新社」が設立され、同年3月1日付で旧会社の事業を承継することになりました。旧常陽新聞社の従業員は希望者全員が新会社に再雇用される形となりました。

新たな体制の下でも、経営環境の悪化は続きました。景気低迷や地域経済の衰退により、大口広告主が減少。実発行部数は約5000部まで落ち込み、年間の売上高も大幅に減少しました（2008年3月期には6.2億円でしたが、2013年3月期には約1.63億円まで落ち込み）。慢性的な赤字経営から脱却できない中、2013年8月には従業員への給与遅配が発生するなど、経営は限界を迎えます。その結果、株式会社常陽新聞新社は同年8月30日に準自己破産を申請し、翌31日付の朝刊をもって『常陽新聞』は廃刊となりました。この時の負債額は約1.2億円に上り、その大半は輪転機などのリース料や未払い給与でした。

初代常陽新聞はまた、地域情報誌事業も展開していました。1977年には情報紙『常陽リビングニュース』を創刊し、1988年には無料情報紙『つくばムック』（後に『常陽ウイークリー』と改題）を発行。特に『常陽ウイークリー』は毎週25万部という大規模な発行部数を誇り、本紙とは異なる層への情報提供を行っていました。しかし、『常陽リビング』は後に分社化され、常陽新聞本体から離れることになります。

2代目 常陽新聞（つくば）

初代の廃刊から間もない2014年2月1日、タブロイド判の地域新聞として新たな『常陽新聞』が誕生しました。これは、IT分野などで事業経験を持つベンチャー企業家、楜澤悟氏が設立した「常陽新聞株式会社」（2代目法人）が、旧会社から題号を買い取り、事実上の復刊を果たしたものでした。本社をつくば市に置き、土浦市、つくば市とその周辺地域を主な取材・配布対象としました。

新たな『常陽新聞』は、創刊当初の発行部数3000部から、日本新聞協会再加盟の目安である1万部以上を目指し、将来的には複数の地域版発行も視野に入れていました。コスト削減のため、印刷は毎日新聞社系列の東日印刷に、販売は毎日新聞の販売店網に委託するという、印刷・輸送の完全外注化という手法を取り入れました。また、時代の変化に対応するため、購読者向けに電子版サービスを開始し、読者の意見を取り入れてタブレットの貸し出しなども行っていました。紙面構成も試行錯誤を重ね、当初12頁だったものを8頁に削減し、地域密着記事に注力する一方、地上波テレビ番組表の掲載を終了するなど変化が見られました。

しかし、旧紙時代から続く全国紙やネットメディアとの厳しい競争、人口流動性の高い地域特性、そして新聞業界全体の部数低迷という逆風の中で、購読者数は伸び悩み、月数百万円規模の損失を計上する状況が続きました。地域において不可欠な有料メディアへと成長する壁は厚く、わずか3年余りでの終焉を余儀なくされました。2017年3月31日付をもって新聞および電子版ともに休刊（廃刊）となり、2代目の歴史も幕を閉じました。会社自体はすぐには清算せず、事業譲渡の可能性を探る期間を置きましたが、その後商号を変更し、東京都内に本社を移転しています。

『常陽新聞』の論調は、初代、二代目を通して、極めて地域密着型であると同時に硬派な傾向が強かったのが特徴です。県や市の施策に対する批判的な視点を含む記事が多く、一般的な生活情報や読者投稿は比較的控えめでした。復刊後は、部数拡大を目指し、スポーツ紙のような太文字見出しを採用するなど視覚的な工夫も見られましたが、基本的な論調や紙面構成に大きな路線変更はありませんでした。

後継と関連事業

『常陽新聞』の廃刊後、その報道姿勢の一部は後継となるメディアに引き継がれました。2017年8月には、『常陽新聞』の元記者や旧常陽新聞新社の元社長らが中心となり、NPO法人「NEWSつくば」が設立され、つくば市・土浦市周辺の地域情報をインターネットで配信するニュースサイトを立ち上げました。筑波学院大学とも連携し、行政や地域の出来事を伝える硬派な記事を配信しています。収益は主に地元企業からの寄付や広告に依存しており、安定した経営には課題を抱えつつも、地域ジャーナリズムの灯を消さないための取り組みが続けられています。

また、常陽新聞はかつて地域情報誌事業として『常陽リビング』を創刊しました。1977年に情報版として始まった『常陽リビング』は、後に分社化され、京葉ガスグループの一員として茨城県南部で長年、新聞折込の形で刊行されました。かつては最大40ページに及ぶ充実した内容で、年間売上10億円を計上するほどの成功を収めました。しかし、インターネット広告の台頭による不動産広告の減少や、新型コロナウイルスの影響による飲食店・旅行関連広告の激減により、末期にはページ数が大幅に減少しました。広告収入の減少に加え、原材料費の高騰といった経済的な要因も重なり、2022年12月17日発行の最終号をもって、45年の歴史に幕を閉じました。

『常陽新聞』とその関連事業の盛衰は、インターネットの普及や経済状況の変化が、地域に根差したメディアの経営に如何に大きな影響を与えるかを示す事例と言えるでしょう。多くの困難に直面しながらも、地域に情報を届けるための様々な試みが続けられた軌跡は、地方ジャーナリズムの歴史の一端を物語っています。

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