平尾合戦

平尾合戦：楠木正勝の奇襲と山名氏清の勝利

元中5年/嘉慶2年（1388年）8月17日、大阪府堺市美原区平尾で、南北朝時代の重要な合戦である平尾合戦が勃発しました。この戦いは、南朝側の楠木正勝による北朝方への奇襲、そして北朝側山名氏清によるこれを撃退する物語です。

衰えゆく南朝と正勝の決断

楠木正儀の死後、南朝楠木氏の勢力は大きく衰え、正勝はわずか300余騎を率いるのみとなっていました。北朝方の山名氏清は、かつて正儀の奇策に苦戦した経験から、楠木氏の弱体ぶりを偽装した策略ではないかと疑念を抱き、攻勢に出ませんでした。

しかし、足利義満将軍が紀伊国への参詣から帰京する途上にあったことを知った正勝は、これを好機と捉えます。吉野朝廷から増援約800を得て、自軍200騎と合わせて約1000の兵を率い、義満の行列への奇襲を計画しました。

奇襲の失敗と氏清の冷静な対応

正勝は8月17日夜、平尾を通って和泉へ向かう計画でしたが、赤坂城に駐留していた氏清は、事前に南朝方の動きを察知していました。氏清は、約3500騎という圧倒的な兵力で平尾に先回りし、正勝を待ち構えていました。

早朝、朝霧の中で山名氏の家紋である三引両の旗を見た正勝は、奇襲は失敗に終わりました。劣勢を悟った正勝は、まず魚鱗の陣形、そして偃月陣へと巧みに陣形を変え、精鋭の騎兵隊と歩兵を駆使して奮戦しました。氏清は正勝の巧みな戦術に感嘆しますが、数的優位を活かし、防御を堅守して敵の疲弊を待ちます。

矢弾が尽きかけたところで、氏清は反撃を開始。圧倒的な兵力で楠木軍を押し潰し、正勝軍は壊滅的な敗北を喫しました。南朝側の死者数は200余名にのぼったと伝えられています。

平尾合戦の影響と評価

平尾合戦の結果、北朝は南朝への攻勢をさらに強めました。義満は無事帰京し、氏清には感状が下賜されました。この合戦は、南北朝合一への大きな転換点となり、4年後の元中9年/明徳3年（1392年）には楠木氏の本拠地である千早城が陥落、そして明徳の和約による南北朝合一が実現することになります。

しかし、平尾合戦における勝利は、山名氏を足利将軍家から警戒される存在へと変えました。山名氏は、この戦いを契機に勢力を拡大し、11か国の守護職を兼任するほどになりましたが、元中8年/明徳2年（1391年）の明徳の乱で義満に敗れ、氏清は戦死しました。

正勝の戦いは、『後太平記』では劣勢時の適切な戦略選択を欠いたと批判されていますが、19世紀の文筆家武田交来は、兵力差4倍という不利な状況下で奮戦した正勝の智勇を評価し、日本の名将の一人として数えています。

史料について

本記事で用いた史料は主に『後太平記』ですが、軍記物であることを踏まえ、記述内容には史実と異なる部分もあると認識する必要があります。他の史料からの裏付けも参照することで、平尾合戦のより正確な理解を目指しました。いくつかの古文書が平尾合戦の存在を示しており、少なくともこの合戦が楠木氏に大きな打撃を与えたことは確かな歴史的事実と言えるでしょう。

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