楠木正勝

楠木正勝は、南北朝時代に南朝方として活躍した武将であり、楠木氏の当主です。祖父は楠木正成、父は楠木正儀という名門の家に生まれました。その生涯は、南朝の衰退と室町幕府の台頭という激動の時代に翻弄されながらも、不屈の精神で戦い抜いた人物として知られています。

生涯

正勝は、1351年に父・正儀の嫡男として誕生しました。幼名は小太郎と伝えられています。父・正儀が一時的に北朝に帰順した際には、正勝は南朝に残り父と対立したという説もあります。その後、正儀が再び南朝に帰参すると、正勝は父と共に南朝のために戦いました。1377年には、紀俊文の娘との間に嫡男・正盛をもうけています。正勝は、南朝の武将として各地を転戦し、その卓越した戦術は軍記物『後太平記』で「太公望呂尚に匹敵する」と評されました。しかし、1388年の平尾合戦で敗北、1392年には本拠地である千早城を失い、南朝は北朝と合一（明徳の和約）しました。しかし、正勝は室町幕府への徹底抗戦を続け、1399年の応永の乱に大内義弘と呼応して参戦しましたが敗北、その敗走中に負った傷がもとで1400年に亡くなりました。

南北朝合一後の戦い

南北朝が合一した後も、正勝は北朝への抵抗を続けました。1399年、大内義弘が幕府に対して反旗を翻すと、正勝もこれに呼応して挙兵しました。しかし、この戦いも敗北に終わり、正勝は傷を負いながら逃走中に亡くなったとされています。

伝説

正勝の死後、彼をめぐる様々な伝説が生まれました。その一つが、正勝が仏門に入り僧侶として後半生を送ったというものです。普化宗中興の祖とされる虚無や、曹洞宗の禅僧である傑堂能勝、正巌徳勝などの高僧と同一人物であるという説があります。また、浄土真宗を学び、その教えを広めたという伝説も残っています。

虚無との関連性

正勝が普化宗の僧侶「虚無」として全国を旅したという伝説は、尺八の起源を説く『虚鐸伝記』にも登場します。この伝説によれば、正勝は隠遁生活の後、虚風という僧に普化宗と虚鐸を学び、虚無と名乗ってその法を嗣いだと言われています。虚無は編笠で顔を隠し、虚鐸を吹いて歩くという独特な姿で各地を巡り、この行動が虚無僧の語源になったとされています。また、虚無が各地で普化宗を広めたことで、その弟子たちは風狂な姿を好んだと伝えられています。

傑堂能勝との関連性

曹洞宗の高僧である傑堂能勝を正勝の出家後の姿とする説も有力です。傑堂能勝は楠木正成の縁戚とも言われており、その出自には諸説ありますが、正勝との関連を指摘する寺伝も存在します。傑堂能勝は、各地に寺院を開基し、多くの弟子を育てました。その足跡は、現在も各地に寺院として残っています。

その他の伝説

浄土真宗では、正勝が本願寺の4世善如から教えを受けたと伝えられています。また、正勝の孫が浄土真宗に帰依し、蓮如の片腕として活躍したという伝説もあります。正勝は戦乱の中で仏教に深く帰依し、その精神を後世に伝えた人物としても知られています。

評価と影響

正勝の戦術的才能は、『後太平記』で高く評価されています。しかし、戦略レベルでは、奇策に頼りすぎた点を批判する声もあります。一方で、その智勇は祖父である正成にも劣らないと評価する文筆家も存在します。また、正勝は江戸時代の小説にも登場し、その生き様は多くの人々に語り継がれてきました。

明治維新後には、皇国史観に基づき、正勝の忠臣としての側面が強調されました。正勝は、その武勇と忠誠心から、後世に大きな影響を与えた人物として、今もなお語り継がれています。

墓所

正勝の墓所とされる場所は各地に存在します。奈良県十津川村の墓所は、明治時代に整備され、現在も供養が行われています。その他、大阪、茨城にも墓所が伝えられています。

子孫

正勝の嫡男である正盛は、伊勢楠木氏の祖となり、その子孫は武将や刀工として活躍しました。伊勢楠木氏の庶流には、木俣氏や山下氏など、現在もその血筋を引く氏族が存在します。

正勝は、その生涯を通して、南朝のために戦い続けた武将であり、後世に様々な伝説を残した人物です。その不屈の精神と忠誠心は、時代を超えて多くの人々に感銘を与えています。

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