平成5年8月豪雨

1993年（平成5年）8月、鹿児島県を襲った一連の豪雨災害は、気象庁によって「平成5年8月豪雨」と正式に命名されました。この災害は、8月1日に姶良郡（現在の姶良市・霧島市の一部）を中心に発生した集中豪雨（8.1豪雨）と、8月6日に鹿児島市を中心に発生した集中豪雨（8.6豪雨）の二つの大きな豪雨を含んでいます。特に8.6豪雨は、県内の多くのメディアで「8.6水害」として大きく報道され、その後の台風被害も「8.6水害のあった年の台風」として言及されるなど、県民の記憶に深く刻まれています。

豪雨発生の背景

1993年の夏は、梅雨が長引き、太平洋高気圧の勢力が弱かったため、梅雨前線が日本列島に停滞し続けました。これにより、記録的な冷夏となり、気象庁が発表した梅雨明けも撤回されるという異常事態となりました。さらに、7月下旬には短期間に3つの台風が相次いで上陸し、8月にも台風が接近するなど、台風の接近・上陸も多い年でした。これらの気象状況が複合的に重なり、各地で大雨による被害が発生しました。特に、九州地方では、6月から7月にかけて梅雨前線の影響で総降水量が1000mmを超える地域もあり、土石流や浸水被害が多発していました。このような地盤が緩んだ状況下で、8月の集中豪雨が発生したのです。

8.1豪雨

8月1日午後、姶良郡を中心に1時間あたり最大104mmという猛烈な雨が数時間降り続きました。溝辺町（現在の霧島市溝辺町）では、1日で450mmもの雨量を記録し、この豪雨により23名もの死者が出ました。土石流が各所で発生し、九州自動車道や国道10号をはじめとする多くの道路が通行止めとなりました。また、日豊本線の一部区間が長期間不通となり、バスによる代替輸送が行われました。天降川が増水し、流域では家屋の浸水や橋の破損などの被害が発生しました。

8.6豪雨

8月6日午後には、鹿児島市を中心に1時間あたり最大99.5mmの猛烈な雨が数時間降り続きました。鹿児島市では、1日で259mmの雨量を記録し、死者48名、行方不明者1名という甚大な被害が出ました。家屋の全壊は284戸、半壊は183戸にのぼりました。この豪雨では、河川の氾濫や土石流が多発し、市街地は広範囲にわたって浸水しました。

河川の氾濫と石橋流失

鹿児島市中心部を流れる甲突川、稲荷川、新川が増水し、甲突川に架かる五石橋のうち、新上橋と武之橋、そして稲荷川に架かる実方太鼓橋が流失しました。これにより、河川流域の広範囲で浸水被害が発生し、約12,000戸の家屋が浸水しました。また、河川の氾濫により、河頭浄水場と滝之神浄水場の施設が損傷し、鹿児島市の給水能力が大きく低下しました。これにより、最大で97,000件もの断水が発生し、市民生活に大きな影響を与えました。浄水場の復旧までの間、各地で給水活動が行われました。

竜ヶ水付近の土石流

鹿児島市吉野町の花倉地区では、裏山で発生した土砂崩れが病院を直撃し、入院患者と避難住民15名が亡くなるという痛ましい事故が発生しました。また、日豊本線竜ヶ水駅付近では、沿線で30か所以上の土石流が発生し、鉄道と道路が完全に孤立しました。これにより、約2,500名が取り残され、孤立した人々の中には土石流に巻き込まれて鹿児島湾に投げ出される人もいました。この孤立した人々は、近隣の漁船やフェリー、海上保安庁によって救出されました。この救出劇は、テレビ番組でも取り上げられ、多くの人々に知られることとなりました。当時の鹿児島県知事も竜ヶ水で孤立しましたが、車載電話で災害対策本部に指示を出し、救助後漁業取締船で県庁へ向かいました。

報道機関の動き

南日本放送（MBC）では、放送会館周辺が冠水し、ラジオ中継車などが使用不能になりましたが、スタッフの必死の排水作業により放送を継続しました。この際、全国ネットの報道番組を中断し、ローカルの災害放送に切り替え、ラジオも終夜放送で災害情報を伝え続けました。しかし、一部ではMBCが災害情報よりも政権報道を優先していたとの批判もありました。この反省から、地域密着型のコミュニティFM局が開局するなど、メディアのあり方も見直されるきっかけとなりました。

災害の教訓

平成5年8月豪雨は、鹿児島県に甚大な被害をもたらし、多くの教訓を残しました。この災害を教訓に、鹿児島県では土砂災害発生予測システムや河川情報システムを導入し、防災対策の強化を進めています。また、地域住民の防災意識向上も重要な課題となっています。この災害の記憶を風化させることなく、今後の防災対策に活かしていくことが重要です。

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