平維綱

平維綱：平氏繁栄と悲劇を彩る生涯

平維綱（たいら の これつな）は、平安時代末期に活躍した武将です。伊勢平氏の傍流に属し、平清綱を父に持ち、平忠盛の家臣として仕えました。特に平家盛の乳母父という立場から、平家一族との深い繋がりを持っていたことが知られています。維綱は鷲尾、桑名という二つの名乗りを用いていました。

保安4年（1123年）頃、維綱は忠盛の次男である家盛の乳母父となります。これは幼少の家盛を支え、その成長を見守ったことを意味しており、平家内部での信頼の厚さを示しています。

保延元年（1135年）8月には、平忠盛による海賊討伐の功績により、右兵衛尉に叙任されます。これは朝廷から与えられた官職であり、維綱の武功と忠盛からの信頼が朝廷にも認められていた証左と言えるでしょう。

天養年間には、院領（鳥羽上皇の私領）である信濃国小河荘への介入を試みます。当時、この荘園には清原家兼からの譲渡状と文書があると主張し、介入を試みましたが、鳥羽院庁はこれを禁じる院庁下文を天養2年（1145年）7月に発布しています。この一件は、維綱が平氏の勢力拡大、特に院領への影響力拡大に深く関わっていたことを示す重要な史料です。平氏は、こうした活動を通して徐々に勢力を拡大していったのです。

久安5年（1149年）3月、家盛が鳥羽法皇の熊野参詣の道中で急逝するという悲劇が起きます。この知らせを聞いた維綱は深い悲しみに暮れ、その場で出家しました。これは家盛との深い絆を示すだけでなく、平家にとって大きな損失であったことを如実に物語っています。

維綱の子、良平（桑名九郎）の子孫には、桑名恒平という人物がいます。彼は早くから源頼朝の傘下に入り、奥州合戦に参陣し、その戦功によって備後国を賜りました。さらに、大和氏、三重氏、備後杉原氏などの祖先となったと伝えられており、維綱の子孫は鎌倉幕府の成立と発展にも貢献したことが分かります。

平維綱の生涯は、平氏一族の隆盛と、それに伴う悲劇を象徴的に物語るものです。家盛の乳母父として平家内部で重要な役割を果たし、平氏の勢力拡大にも貢献した一方で、愛する家盛の死をきっかけに出家するなど、波乱に満ちた人生を送りました。そして、その子孫は鎌倉幕府においても重要な役割を果たしたのです。彼の存在は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての激動の時代を理解する上で重要な鍵となるでしょう。

参考文献

五味文彦　『平清盛』　吉川弘文館〈人物叢書〉、1998年
角田文衞　『平家後抄〈上〉落日後の平家』　講談社学術文庫　2000年（1981年刊行）

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