幸せのノック

「幸せのノック」（原題: Let 'em In）は、1976年にポール・マッカートニーが率いるバンド、ウイングスが発表した楽曲です。同年にリリースされた彼らの5枚目のオリジナル・アルバム『スピード・オブ・サウンド』に収められ、アルバムからのセカンド・シングルとしてもリリースされました。

制作背景

本作は、およそ1年に及ぶ大規模な「ウイングス・オーヴァー・ザ・ワールド・ツアー」の合間を縫って制作されました。具体的には、1976年の2月から3月にかけて、ロンドンの伝説的なアビー・ロード・スタジオで行われたレコーディング・セッションの中で録音されています。

楽曲の冒頭で特徴的に響くベルの音は、ポール自身の自宅の玄関チャイムが実際に使用されたものです。この何気ない日常の音を取り入れることで、歌詞に描かれる「家へ人々を招き入れる」という情景に温かみとリアリティが加わっています。

歌詞に登場する人々

この曲の歌詞には、ポールの身近な人々や歴史上の人物、さらには架空のキャラクターまで、様々な名前が登場しますが、「アンクル・アーニー」を除いては全て実在する人物に基づいています。登場順に見ていきましょう。

シスター・スージー（Sister Suzie）: ウイングスの変名バンド、スージー・アンド・レッドストライプスでの名義としても知られる「スージー」であり、ポールの妻であるリンダ・マッカートニーを指します。
ブラザー・ジョン（Brother John）: かつてジョン・レノンを指しているのではないかという憶測も流れましたが、実際にはリンダの兄、ジョン・イーストマンのことです。
マーティン・ルーサー（Martin Luther）: アメリカ公民権運動の偉大な指導者、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師のことです。
フィルとドン（Phil and Don）: 伝説的なカントリー＆ロックンロール・デュオ、エヴァリー・ブラザースのドン・エヴァリーとフィル・エヴァリーの兄弟を指します。後にポールは彼らに「ナイチンゲールの翼 (On the Wings of a Nightingale)」という楽曲を提供しています。
ブラザー・マイケル（Brother Michael）: ポールの実弟であり、音楽活動も行っているマイケル・マッカートニー（マイク・マクギア名義でも知られる）のことです。
アンティー・ジン（Auntie Gin）: ポールの父方の叔母にあたるジンのことです。
アンクル・アーニー（Uncle Ernie）: イギリスのロックバンド、ザ・フーのロック・オペラ『トミー』に登場する架空のキャラクターです。映画版ではリンゴ・スターがこの役を演じており、親交のあったリンゴへの遊び心として名前が使われたと推測されます。
アンクル・イアン（Uncle Ian）: ポールの叔母ジン（アンティー・ジン）の息子、つまりいとこにあたるイアンのことです。

このように、家族や友人、尊敬する人物の名前が織り交ぜられることで、まるでポールの自宅に招かれたかのような温かく親密な雰囲気が醸し出されています。

リリースと成功

シングルは1976年 6月28日にアメリカで、『スピード・オブ・サウンド』からのセカンド・シングルとしてリリースされました。発売されるやいなや大きな反響を呼び、全米ビルボード誌のシングル・チャートでは最高位第3位を4週間にわたって記録する大ヒットとなりました。また、キャッシュボックス誌では見事第1位を獲得しています。イギリスのチャートでも第2位を記録するなど、世界各国で成功を収め、ウイングスの絶頂期を象徴する楽曲の一つとなりました。

シングルのB面には、1975年10月に行われたアルバム制作のための最初のセッションで録音されたロック・ナンバー「愛の証し (The Note You Never Had)」が収録されています。

なお、フランスでは限定盤として12インチ・シングルもリリースされましたが、収録された音源は7インチ・シングル盤と同じ内容でした。

その後の扱い

「幸せのノック」は、ウイングスのコンサートにおいて定番曲の一つとして頻繁に演奏されました。ウイングス解散後も、ポール・マッカートニーのソロ・キャリアの中で時折セットリストに加えられており、長年にわたってファンに愛され続けている楽曲です。彼の代表的なコンピレーション・アルバムである『グレイテスト・ヒッツ』、『オール・ザ・ベスト』、『ウイングスパン』などにも収録されており、世代を超えて親しまれています。

カバー

日本では、歌手の西城秀樹氏が1976年の日本武道館コンサートや1978年の日比谷公会堂でのコンサートでこの曲をカバーし、その模様はそれぞれのライブ・アルバムに収録されています。

参加ミュージシャン

ウイングス

ポール・マッカートニー: リード・ボーカル（「幸せのノック」「愛の証し」）、バッキング・ボーカル、ピアノ（「幸せのノック」）、ベースギター（「愛の証し」）
リンダ・マッカートニー: バッキング・ボーカル（両曲）、キーボード（「幸せのノック」）、リード・ボーカル（「愛の証し」）
デニー・レイン: バッキング・ボーカル（両曲）、ミリタリードラム（「幸せのノック」）、アコースティック・ギター（「愛の証し」）
ジミー・マカロック: ベースギター（「幸せのノック」）、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター（「愛の証し」）
ジョー・イングリッシュ: ドラムス

ゲストミュージシャン（「幸せのノック」に参加）

ハウイー・ケイシー: フルート、サクソフォーン
タデウス・リチャード: フルート、サクソフォーン
スティーブ・ハワード: フルート、トランペット
* トニー・ドーシー: フルート、トロンボーン

もう一度検索