幻想文学 (雑誌)

幻想文学：日本の幻想文学専門誌の軌跡

1982年、編集人である東雅夫氏によって創刊された『幻想文学』は、日本の幻想文学を語る上で欠かせない存在でした。季刊誌としてスタートし、1994年には発行元と責任編集体制を変更しながらも、2003年7月に通巻67号で惜しまれつつ終刊を迎えるまで、幻想文学専門誌として唯一無二の存在感を示しました。

雑誌の内容と特徴

『幻想文学』は、単なる創作作品集にとどまらず、幻想文学研究を深く掘り下げた内容が特徴でした。評論や研究論文、書評、作家へのインタビュー、そして創作作品や翻訳作品、さらにエッセイやブックガイドといった多様なコンテンツが掲載されました。

特に「幻想ブックレビュー」は、編集メンバーだけでなく読者からの投稿も掲載されており、国内外の幅広い作品を網羅していました。文学作品はもちろんのこと、研究書や哲学書、民俗学書、美術、音楽、児童文学、漫画、映画に至るまで、幻想文学という枠を超えた多角的な視点を取り入れていた点が、この雑誌の大きな魅力でした。1990年の『ブックガイドマガジン』創刊後は、「新刊展望」コーナーに改編され、更なる情報発信を続けました。

常連寄稿者には、倉阪鬼一郎、南條竹則、長山靖生、森村進といった、幻想文学に造詣の深い著名な作家や研究者が名を連ね、誌面を彩りました。表紙画は多くの号で建石修志氏が担当し、41号からは伊勢功治氏が表紙デザインを担当しました。

幻想文学新人賞

『幻想文学』では、1985年から「幻想文学新人賞」という短編小説賞を設け、新たな才能の発掘にも貢献しました。選考委員には、澁澤龍彦氏と中井英夫氏という、当時を代表する幻想文学作家が名を連ね、多くの期待を集めました。しかし、澁澤氏の逝去により、残念ながら2回で終了することになりました。第1回の入選者には牧野みちこ氏（牧野修氏）、加藤幹也氏（高原英理氏）らが、第2回には小畠逸介氏（芦辺拓氏）、土井喜和氏（土井喜和子氏）らが名を連ねています。

多彩な特集

『幻想文学』は、各号ごとにテーマを設定した特集を組むことで、幻想文学の多様な側面を深く掘り下げていました。特集のテーマは幅広く、「ケルト幻想」「幻想純文学」「ラヴクラフト症候群」「幻想SF」「モダンホラー」「日本幻想文学誌」「吸血鬼文学館」「夢文学大全」など、多岐にわたるテーマが扱われ、読者に豊富な知見を提供しました。これらの特集は、幻想文学研究に大きな足跡を残しました。特に、日本幻想文学史を時代別に追った特集は、貴重な資料となっています。

連載記事

複数の連載記事も掲載されており、個々の作家や作品への深い考察、また特定のテーマに関する継続的な論考が提供されました。例えば、渋谷章氏の「ハガード、ハガード！」はヘンリー・ライダー・ハガードの評伝として全号にわたって掲載され、多くの読者を魅了しました。他にも、作家インタビューや特定のジャンルに焦点を当てた連載などが存在し、雑誌の充実度を高めていました。

別冊と関連刊行物

『幻想文学』は、不定期に別冊を刊行し、特集をより深く掘り下げた内容を提供していました。著名な作家に焦点を当てた特集や、特定のジャンルを網羅した作品集など、多様な別冊が発行され、本誌を補完する役割を果たしました。また、東雅夫氏による編集で、多数の関連書籍が出版され、幻想文学研究をさらに発展させています。これらの書籍は、現代においても重要な参考文献として活用されています。

まとめ

『幻想文学』は、日本の幻想文学研究において、その発展に多大な貢献をした重要な雑誌でした。多様なコンテンツ、著名な作家陣、そして質の高い編集によって、多くの読者を魅了し、幻想文学界に大きな影響を与えました。その存在は、現代においても幻想文学ファンにとって、忘れがたいものとなっています。

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