幼児虐殺 (ルーベンス)

ピーテル・パウル・ルーベンスの『幼児虐殺』

ピーテル・パウル・ルーベンスの『幼児虐殺』（英: Massacre of the Innocents）は、新約聖書のマタイによる福音書に記された幼児虐殺のエピソードを題材とした絵画作品です。ルーベンスは、この悲劇的な場面を2度にわたり描いています。

1枚目の『幼児虐殺』

ルーベンスが1611年から1612年頃に描いたとされる1枚目の『幼児虐殺』は、長らく行方不明となっていました。この作品は、かつてルーベンスの別の傑作『サムソンとデリラ』と共に、オーストリアのリヒテンシュタイン美術館に所蔵されていました。しかし、18世紀には、誤ってルーベンスの助手であったヤン・ファン・デン・ヘッケの作品だとされ、1920年までその誤認が訂正されることはありませんでした。

その後、この絵画はオーストリアのある一家に売却され、1923年からは聖アウグスチノ修道会に貸与されていました。2001年になり、ロンドンのサザビーズにいた初期フランドル派・オランダ絵画専門家のジョージ・ゴードンが、この作品を鑑定しました。ゴードンは、絵画の特徴や様式から、『サムソンとデリラ』と同じルーベンスの真筆であると断定しました。

2002年7月10日、ロンドンのサザビーズでオークションにかけられたこの作品は、4950万ポンド（約90億円）という破格の値段で落札されました。落札者の名前は公表されませんでしたが、ロンドンの美術商であるサム・フォッグが代理入札をしていたことが後に判明しました。さらにその後、落札者はカナダの新聞王で第2代フリートのトムソン男爵ケネス・トムソンであることが明らかになりました。当時、この価格は巨匠の名画のオークション落札額としては最高額でした。

オークションの後、この絵画はロンドンのナショナル・ギャラリーに一定期間貸与され、その後2008年にはトロントのオンタリオ美術館（AGO）に寄贈されました。AGOは近年、大規模な改築や増築を行っています。

作品の分析

ルーベンスは、1600年から1608年の間イタリアに滞在し、カラヴァッジョをはじめとするバロック期の画家たちの作品に触れ、画風を深めました。この期間に得た影響は、『幼児虐殺』にも見られます。劇的な場面構成、ダイナミックな表現、そして鮮やかな色彩は、バロック絵画の特徴をよく表しています。また、明暗を強調するキアロスクーロの使用も、その影響の表れと見ることができます。

2枚目の『幼児虐殺』

ルーベンスは、晩年の1636年から1638年にかけて、再び『幼児虐殺』を主題とした作品を描きました。この2枚目の作品は、1706年までにミュンヘンのアルテ・ピナコテークに売却され、現在もそこに展示されています。また、この作品は同時代の版画家パウルス・ポンティウスによって1643年に版画化されています。

参考文献

Massacre of the Innocents at the National Gallery, London
National Gallery, London press release at time of loan
BBC News article on the auction
ART "4" "2"-DAY article

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